文春文庫
名門康和銀行は巨額のデイーリング失敗に苦しみ、外資系のどこかの銀行と組んでこの危機を乗り切ろうと画策していた。同銀行で2年前赴任した花形デイーラー明石哲彦が高層ホテルから身を投げてなくなっている。
芹沢祐弥は明石と幼なじみの親友で、ファーストアメリカ銀行デイーラーである。彼は明石から死の直前「N.U.H」なるメッセージを受け取った。自殺して始めて、それが「NEED
YOUR HELP」ではなかったかと考え、自責の念に駆られると共に真相を追求しようと考えていた。
有吉州波はモーリストンプソン証券会社国際営業部門の女性トップセールスである。彼女は女の武器を有効に使って国際的エコノミストジョン・ブライトン、米国上院議員ステイブン・ロビンソン三世、大蔵省銀行局審議官宮島修司等に次々と近づいて行く。やがて彼女は明石にデイーリングを指南しており、同時に愛人であったことが明らかになる。彼女のねらいは何であろうか。
やがて芹沢の申し入れで二人で康和銀行ニューヨーク支店の損失隠しを明らかにして行く。たよりは明石の残したCD、しかし実行者の名前が特定されない。「N.U.H」には他の意味があるのか。
男以上の力量をもキャリアウーマンが、日本金融界のどうしようもない古くささ、国益を無視したやり方に痛烈な批判を与え、変革を迫った作品と言うことが出来る。しかしこの背景になっている銀行の崩壊、ないしは日本の破綻と言った主題は、現在でも全く解決されておらず、なお厳しくなっているように見え、参考になる。
作者は10年ほど前、偽造証券でヒットしたと聞く。私はこの偽造証券とヘッジファンドをすでに読んだが、それに比べると人物の描写、プロットなど「うまくなったなあ。」と感じさせる。
・こんな普通の一人の女が、ごく一部の個人的な思惑にちょっと刺激を与えただけで、世の中がなんとでも動くのだとしたら、その方がすごく怖い事よ。何か不穏な動きがあったとき、それに対抗する健全な社会の自浄作用が欠落していると言うことでしょう。(下117P)
・大蔵省による銀行救済措置への国民の反感を鎮めるために。彼らはこの辺でもう一行を犠牲者として破綻させておこうというのである。おそらくマスコミを使い、そのさらなるもう一体の生け贄を、さも痛々しい悲劇に仕立て上げるだろう。そうすれば、国民の間に、やはり救済措置として、公的資金の導入やむなしの気運が高まるはずだ。そうしてまた、大蔵省の威信が復活するときが来る。(下161P)
・ ノートン・ユーテイリテイズのソフト:「データの保護や、ダメージを受けたり消失したデータの回復」(下239P)
・ ああ、誰だって何かしらの傷を持っている。そうだよ。日本中の人間がそうさ。いや、日本という国自体が、今はぼろぼろに傷ついて、あえいでいる。自ら作った過去の傷を、ずっと隠し続け、放置したままで、さらに悪化させてきたのだからな。だけど、その傷を、もう隠し通しているときじゃないんだよな。(下296P)
011217