傷ついた野獣         伴野 朗


双葉文庫

リアリテイに飛んだ記述が魅力である。解説によると著者は朝日新聞の記者で、若い頃秋田支局で働いていた、その経験を生かしているのだという。
おれは一流とは行かぬ新聞のあるブロックの記者。愛車のナナハンを駆って県庁、市庁、警察、検察などを飛び回っている。三十歳を越え、独身、気楽なこの稼業がすきだ。余り目につかない小さな事件を取り上げ、それらを組み合わせて全体像をつかんで行こうとする推理過程が魅力だ。
しかし新聞記者としての奢りは気になった。教えてくれない検事に一泡吹かせてやった、ざまあみろ!と言った話しが得意然として書かれている。正義という観点ではなく、ヒット記事を作り上げたからそれで成功だ、という見方で書かれており、マスコミの報道による一般大衆の迷惑などは考慮されていない。意地悪く言えば主人公俺の社内における得点主義ばかりが鼻につく。俺は痛快かもしれないが、読者は痛快と感じるのだろうか。
予定稿解除
俺は栗山県議の秘書らしい男から、県議会議長大塚が社主になっている県林業振興事業団を調べろ、とたれ込まれた。調べを進め、堀内市長の大塚に対する低価格による旧保健所の払い下げによる利益供与を発見した。大塚逮捕の予定稿を用意し、張り込みを続け、解除の時を待つ。
美談の裏側
毎月県警本部長あてに送られてくる現金書留、「恵まれない人のために使って下さい。」とある。俺は同僚と誰から送られたか調べる賭をした。最近の交通事故の被害者をあたるが空振り。それでは加害者が罪滅ぼしのために送った、と考えたところ、容疑者が浮かんだ。
姿無き殺人鬼
若い女性がデパートの階段から落ちて、若い男がバイクでふらふら運転をして壁に激突して、とびが足場から落ちて死ぬ。皆事故として片づけられようとしていたが、俺は納得しない。三人の接点に松浦家のおばあさんのだしたイイズシが浮かんだ。ボツリヌス菌中毒。ところが事件が判明した後、バーテンが死んだ。これは原因を知った人妻の強請られたが故の殺人。
少年の証言
少年が逮捕され、郵袋から110万円盗んだと自白した。彼は容疑者に浮かびながら、俺は無罪を信じて消し去ったため、酒巻検事から馬鹿にされた。しかし盗んだ金と使った金が会わないと言う。彼はだれかをかばっている!
傷ついた野獣
先入観は怖ろしい。大仏の鐘がズーズー弁にかかると動物の亀になったりしてしまう。木造アパートで高村由岐なる女性がガス自殺をし、一命を取り留めたが、病院に入ってから自殺してしまった。とかく女出入りの多い小畑流家元小畑壮之助が捜査線上に浮かぶ。彼の周囲からは別の女性も行方不明になっていた。俺は必死になって、彼のアリバイを当たったが・・・。
場外ホームラン
俺は高校野球の取材をさせられていたが、直前に男がすり現行犯で捕まり、それを市立高校のスラッガー佐伯が鋭い目で見つめていることに気がついた。その試合、佐伯の大ブレーキで優勢と考えられた市立高校は負けてしまった。それにしてもなぜ佐伯はあんなに不審だったのだろう。そして野球賭博で追いつめられた男が殺された。側には佐伯の指紋のついたバット。果たして佐伯は野球賭博にからみ、殺人を犯したのだろうか。

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