琥珀のパイプ・蜘蛛   甲賀 三郎


日本探偵小説全集1

琥珀のパイプ
 東京に大地震があって間もないころ、嵐の晩、渋谷町に住む私は自警団に出た。退役陸軍大佐の青木氏と自称新聞記者の松本氏が一緒だった。終わって帰りかかったとき、青木氏の家と隣り合わせに住み、青木氏が夜警団に参加せずけしからんと言っていた福島氏宅から出火、あわてて駆けつけたが遅く、焼け跡から刃物で刺された留守番の夫婦と子供の死体が見つかった。現場で見つかった不思議な紙片を松本氏がそっと隠した。
 いろいろ考えられたが、松本氏は「女を刺したのは左利き、男を殺したのは右利きで犯人は違う。私は新聞記者でこの紙片を岩見慶二の部屋で見たことがあるから、彼が犯人ではないか。」当時、岩見慶二は、ポケットから万引きした品が出たにも関わらず、覚えが無いと否定し、さらに東洋宝石に強盗に入ったのではと疑われている男である。しかし彼は何者かに操られていたとの可能性もあるとして釈放されていた。
 さらに松本氏は事件を火災保険を狙った福島氏の反抗と断定し、発火方法を「一方をシールしたU字管に水銀をいれ、その上に硫酸を載せておく、U字管の下には塩酸カリと砂糖の混合物をおいておく。すると気圧が下がると硫酸が滴下され、爆発、火事になった」、と解説する。めでたく事件は解決、その後岩見も逮捕された。
 ある日、松本氏に遭うと、彼は福島宅の様子を聞いた後いろいろな話をして別れたが、自宅に帰ると私のポケットから高価な琥珀のパイプが見つかった。何の意味であろうか?またしばらくして松本氏からの手紙、それには驚くべき真実が書かれてあった。
 なかなかの本格推理小説。最後のどんでん返しも面白い。ただ気圧の変化で水銀の上の硫酸がこぼれ落ちるというトリックは一寸問題があるのでは・・・。(1924 31)
蜘蛛
 辻川博士の奇怪な蜘蛛の研究室は、直径二間半ばかりの円筒で、欅の大木に囲まれて、それらの木と高さを争うように、地上三十尺あまりにそびえる支柱の上に、乗っていた。彼はある時嫌っていた潮見博士を招待した。二時間くらいしゃべり続けた後、潮見博士は突然飛び上がり、背後のドアに飛びついて、部屋の外に飛び出したところ、階段を転げ落ち死んでしまった。その後辻川博士が毒蜘蛛にかまれて、死去したため、私が訪ねたがとんでもないことを発見した。円柱型の建物はスイッチをいれるとゆっくりと周り出すのだ。潮見博士が飛び出したとき、階段はなかったらしい!(1930 37)
黄鳥の嘆き
 私の友人で子爵の二川重明は乗鞍岳の飛騨側の数百町歩の土地を買い占め、雪渓の発掘を始めるという奇矯な行動をとった後、死んでしまった。野村儀作は父が重明の父重行の弁護士をしていた関係で子供の頃からの友人だった。ところが父が残した二川家に関する書類の1は日記でそれには、重行は長らく子がなく、死後財産が放蕩な叔父の重武に行くのを非常に恐れていたが、ついに重行が生まれたと記されていた。ところが次の重行から父には、実は重明が重行の子でなく遠縁の者に産ませた子であることが記されている。そして重武から実子でない、とする告訴状、抗弁書などが添えられていた。父はそれに対し、重武の過去を調べて対抗、告訴を取り下げさせている。
 ところが重明から私あてに送られて来た遺書とそれに基づいて行った私の調査結果はもっと強烈だった。重武はかって関西でなじみの女がいたが、その時の重武と今の重武の性質が全く正反対だ。そして山が好きであるとき遭難にあったらしい。その時にどうも本物の重武が殺されて誰か他人が重武になりおおせたらしいのだ!すると重明の死は殺人では無いのか。薬局で調合した睡眠薬を飲んでいたが、どこかですり替えられたのではないか(1935 42)
青服の男
初めて別荘を訪れた資産家の息子小浜信造が心臓発作で無くなった。ところが東京には小浜信造が生きていた!あわてて信造を呼ぶと「これは従兄の北田卓一だ。彼はアメリカのサーカスを呼んで儲ける、だのとんでもない話をふりまき、最近は連珠にこっていると言うことだ。」一件落着と思われたが、刑事がつけ回し、連珠をやっている小浜信造を逮捕、「あんたは北田卓一だ。死んだのはやっぱり小浜信造だ!」(1939 46)
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