幸福な朝食      乃南 アサ


新潮文庫

主人公沼田志穂子はごく平凡な女子高生だったが、美少女で、タレントになることを夢見ていた。たまたま彼女とそっくりの容貌を持つ柳沢マリ子というアイドル歌手がデビュー、その人気はうなぎのぼりだった。
それを眺めながら、高校卒業と同時に東京に出るが、いくら美しく、顔がそっくりというだけではスターへの道は開けない。やがてマリ子が大スターへの道を歩む一方、志穂子は人形使いに転じ、いつの間にか34才になっていた。劇団に属したこともあるが今はフリーで、この世界ではベテランと呼ばれる域に達している。有利な条件で仕事を獲得するため、孤独をいやすため、彼女は多くの男と関係することにも抵抗を感じなくなっていた。
そんなおり、志穂子は新しい人形劇「いこうぜパンチ」に出演するが、声優として参加していた新進俳優青山良介とも深い関係に陥る。ところがその青山と人気女優柳沢マリ子との情事を臭わす写真が週刊誌に掲載された。清純派女優で通っていたマリ子の素顔がおもしろおかしく週刊誌にすっぱ抜かれると同時に青山良介は脚光を浴びる。
実は週刊誌記事は良介と志穂子が仕組んだ話なのだが、これが元で二人の仲は冷めてゆく。そして志穂子と同室の後輩広美までが良介と関係したとあって破局は決定的だ。落ち込む志穂子、彼女は昔同室で、妊娠しながら彼女が冷たくしたことによって死んでいった弓子の事などを思い出す。
そんなおり、志穂子は周囲に妊娠を打ち明ける。しかし父親の名を聞かれると「この子は私の子供なのよ。他の誰の子供でもないわ。」と主張し明かさない。そして生まれてくる赤ちゃんのためにベビー用品を買い入れ、編み物にいそしみ、栄養をとらなくては主張する。良介を始め関係した男達はみな一様にあわて出す。しかし広美は、志穂子が何か狂っていると感じる。

全編志穂子の壮絶な戦いの物語といっ雰囲気である。濃密な心理描写が冴えている。大スターの夢を追い続けながら、顔のでない人形使いの身で終わりそうな挫折感、一度は背をむけたはずの結婚して母親になると言う価値観であるのに、どうしても解放して貰えないあせり、そういったものが非常によく描かれている。話の進め方、伏線のはりかた、いろいろな仕掛け等も面白く、純粋なミステリー小説ではないが、楽しませる作品である。

020307