皇女の霊柩          内田 康夫


新潮文庫

白金長者丸の閑静な町の、袋小路の草むらで、N大学職員大塚瑞枝の絞殺死体が発見された。彼女は長野県妻籠出身で、その日勤め先上司八木沢俊夫宅で開かれた人類学の泰斗瀬戸原名誉教授の誕生会を途中退席してこの奇禍にあったものだった。
浅見光彦は死体発見者からの依頼を受けて調査に乗り出した。木曽路に向かう途中、故郷に戻る途中で卒論で皇女和宮の事跡を調べている池本美雪等と知り合う。馬籠の宿で、最近永昌寺にある島崎藤村の墓の前で、観音堂参りを続けていた池本の母が若い女性の刺殺死体を発見した。殺された女性は弘田祐子、東京の会社員で年齢は大塚瑞恵と一歳違いの37歳だった。
かって皇女和宮が江戸に輿入れするおり、馬籠で柩を作らせたこと、それが明治28年の馬籠大火で焼けたことを知った。美雪の母志保は、なぜかそのたたりが池本家にあるらしい、と恐れていた。柩を作ったのは、代々、木地師を続ける瑞恵の実家だったという。
東京に戻った浅見は、八木沢研究室を訪れるなどして、瀬戸原教授が増上寺の和宮発掘に携わっていたことを知った。その折、烏帽子直垂姿の青年の湿式写真が発見されたが、保存の失敗で像が消えてしまったと言う。やがて弘田が7年前までN大に出入りする業者に勤めていたことから、彼女と大塚に接点があることが判明した。
一方美雪は、志保の手紙を盗み見る機会を得たが、どうやら志保は佐々木という男に脅かされている様子だった。その佐々木は誰か、を追求するうち、若い頃、志保をめぐって父と岐阜の佐々木勝巳の間に軋轢があったことを知った。佐々木勝巳はすでに亡くなっていたが、佐々木家の次男、俊夫が東京にでて人類学の泰斗八木沢名誉教授の婿養子となり、今では冒頭のN大学教授。しかしさしたる功績はなく女出入りの激しく、どうやら弘田裕子が最初の不倫相手、次が大塚瑞恵だったらしい!
もっとも弘田が殺された時、八木沢は東京にいたし、大塚は中央高速を使って瀬戸原教授と東京に戻る途中だった。大塚が殺された時も、誕生会が終わっての帰途だったらしい。そして今度は八木沢俊夫と関係のあったS大学助手の山下州平が失跡する。
八木沢教授等のアリバイは崩せるか。烏帽子直垂姿の青年の湿式写真像は本当に消えてしまったのか。八木沢教授と山下州平の確執はどのような結論を迎えるのか。事件は大団円に近づいて行く。

「死者の木霊」以来、作者の作品をいくつか読んだが、この作品は随分円熟したなあ、という感じがする。ストーリーがしっかりしており、皇女和宮の棺に関する仮説が各地の風俗などの解説と共に興味深く読むことが出来る。作者が主張する「トリックやサスペンスも必要ですが、それは作品を書く上での必要条件であって十分条件ではない・・・・「推理小説」の「小説」の部分を大事にしたい。」(シーラカンス殺人事件)が実現されている。
推理小説と言う観点からは、高速道路を用いたアリバイ作りや消えた画像の謎の話しなどが面白い。ただ増上寺の棺については、烏帽子直垂姿の青年の湿式写真が事件にからんでくるが、馬籠の棺については焼けて無くなってしまった以上の話しがないのが寂しい気がする。
010516