黒死館殺人事件        小栗 虫太郎


創元推理文庫 日本探偵小説全集6


 降矢木家は、カテリナ・デイ・メデイチの隠し子らしいカペルロ・ビアンカから始まる呪われた家系。その館、黒死館では明治後期にに不思議な自殺ないし殺人事件があいついだ。英国に学び、ウイチグス法典、栄光の手などを得た当主算哲が、一ヶ月前自殺した。しかも英国からの帰路、妻のテレーズ夫人、黒死館建設技師デイグスビイの二人が死んでいる。
 館には長男降矢木旗太郎、押金津多子夫人、執事田郷真斎、秘書紙谷伸子、図書係久我鎮子、給仕川那部易介などのほか、算哲が外国からつれてきた楽師4人(ダンネベルグ、レペズ、セレナ、クリヴァフ)が起居をともにしていた。
 神意審問会が開かれ、ダンネベルグ夫人が「算哲!」と叫んで卒倒、翌日、夫人が、算哲の自殺した部屋で、濃い青酸を仕込んだオレンジを食べて死亡する。続いて川那部易介が日本式鎧に押し込められて圧搾窒息死する第二の事件が起こった。

 これらの事件に天才的な刑事弁護士法水麟太郎、支倉検事、熊代が挑む。算哲の遺言によれば、遺産は旗太郎と急遽養子になった4人の楽士に分配されることになっており、津多子夫人はのぞかれていた。そこで夫人の犯行とも考えられたが、夫人は抱水クロラールを注射され、動きを封じられていたところを発見された。その間にも、紙谷伸子がピアノ椅子上で失神したり、ピロカルピンを飲まされたり、クリヴォフ夫人が、読書中に突然石弓で撃たれ、宙つりになったりする。
 英国でテレーズ夫人とデイグスビイ(ユダヤ人)、算哲は三角関係に陥ったが、デイグスビイが破れた。その恨みを引き継ぎ、同じユダヤ人のクリヴォフ夫人が犯人ではないかと考えられた。しかし夫人は、演奏中、突然舞台が暗くなり、その間に背後から刺殺され死亡した。レヴェズも、棺室で竜舌蘭を巻き付け、他殺に見せかけながら自殺してしまった。一番問題であった紙谷伸子も、ピストル自殺した。
 このころになってやっと久我鎮子により、4人の楽士の秘密が明らかになる。算哲は人の犯罪性が遺伝するか否かで、著名な八木沢博士と争ったが、その後二人はならば実験しようと言うことになった。そして欧米から死刑囚の子4人をつれて帰り育てていたと言うのだ。

 最後に法水が種明かしをする。犯人は、実は算哲の子で、血に狂っており、親を殺した後、今回の殺人劇をひき起こした。最後にレヴェズに結婚を申し込まれ、諾ならアレキサンドライト、否ならルビーの髪飾りをつけると約束。アレクサンドライトをつけたが、照明の元では赤くルビーに見えたことが二人の自殺の原因を作った。

 あらゆる殺人手段、トリックのオンパレードと言った感じの作品である。まためったやたらに蘊蓄、故事来歴、書物の説明が多く、読んでいる方はすっかり煙にまかれてしまう。作者が渾身の力を入れて書いていることは確かで、一度は読んでおくべき作品であることは確かである。非常に難しい。読むのは2度目だが、ノートを作りながら読んだが、それでも何を言っているのやら分からぬ箇所もずいぶんあった。
 もちろん、このような作品では現実性など考えなくてよろしい。トリックもうまく行くかどうかはなはだ怪しげな物もあるように思う。動機もどうもあやしげだ。算哲の遺産分配の考え方の説明も不十分。然し、それでも、本格推理小説としてのおもしろさは天下一品。記述は、作品を作る上でも参考になる作品と思う。(1934.9-12 33)

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