創元推理文庫 日本探偵小説全集4
瓶詰の地獄
流れ着いた3本の瓶は難破船にあって南洋の小さな無人島に流された子供たちのものからだった。
第一の瓶の内容
この離れ島にとうとう迎えの船が来た。だけど私たちはこのがけの上からフカの泳ぐ海に向かって飛び込む。私たちの肉体と霊魂を罰せねば、犯した罪の償いが出来ないから。
第2の瓶の内容
流れ着いた小島で私たちは幸せだった。気候は良かったし、食料は抱負だったし、住むところもああった。しかし成長するに連れ私はアヤ子が次第にまぶしくなった。ある時一心に夕日に向かうアヤ子をみて不思議な感情にとらわれた。身体中血だらけになってアヤ子を抱きしめた。それから私たち二人は幽暗の闇に追い出され、悲しみ歯がみしなければならなくなった。地獄がやってきたのです。
第3の瓶の内容
お父様、お母様、私たちは幸せに生きています。早く助けに来てください。
この作品は3度か4度読んだ。非常に理解しがたい面を持っている。人間の原罪を作者なりの視点で描いた作品と言えようか。(1928.10 39)
氷の崖
この小説の舞台は、大正8年末から9年始めの北満である。日本は第一次世界大戦後シベリア出兵を行ったが、不明確な戦争目的、米国の圧力等により撤退すべきかどうか迷っていた。ロシアでは、赤色革命が起こったが、旧貴族層を中心とした白色革命軍も強く、極東では独自の国家をたてていた。
文学青年で陸軍歩兵一等卒の上村作次郎は、ハルピンに北満守備という名目で派遣された。司令本部はセントラニヤという一流の旅館で、本部は2、3階、4階にはオスロフという家主一家が住んでいた。9月初旬星黒2等主計が公金15万円をかっさらって通訳の十梨と一緒に逃亡し、捜査本部が設けられた。上村が捜査のため預かった会計簿を銀月の女将に返し、歓待を受け、戻ってみると様子がおかしく、司令部はもぬけのから。実はこの間に「オスロフは赤軍に通じているスパイだ。」とのたれ込みがあったのだ。
上村は、屋上でサボテンの鉢植えの番号と配置がおかしいことに気づき、これで隣の時計台に暗号を送っていたことに気づく。オスロフの養女ニーナにおそわれるなどするうちに、封印された部屋にオスロフ一家がとらえられていることに気ずく。彼らはその後処刑された。数日して十梨が戻ってきた。そして「星黒に命令されて金を運んだが、途中で逃げ出してきた。」という。しかし上村は、星黒からもらったという二十円札についていたシミから、十梨が星黒から奪ったものだ、と見破る。ウラに銀月の女将がいるに違いない、と考え、乗り込む。
「オスロフ一家を訴えたのも、星黒に15万円を奪わせたのも銀月の女将と配下の坂見だ。」と啖呵を切って逃げ出す。でたところをニーナに助けられ、二人は松花江を下ってハルピン脱出をはかる。旅芸人のまねをしながら、ペトロフスカヤ、ハバロスク、興凱湖、ニコリスクをへてウラジオに至る。しかし公金拐帯、星黒・十梨殺しなどすべての罪を着せられて、二人は追われる身。逃げ切れぬとあきらめた二人はありったけのものを馬車に積み込み、氷の海を沖を目指してどこまでもすすむ・・・・。
軍国主義という退屈な体制から、落ちこぼれ、しかもそこにとどまることすらえずに、何となく新たな可能性を求めてデラシネの世界に入り込んで行く主人公の様子がよく描かれている。一種の反戦小説なのだろうか。
・屋上の展望と散歩をのぞいたハルピンの生活は、僕にとって退屈以外の何ものでもなかった。町のスケールが大きければ大きいだけ、印象がアクドければアクドいだけ、それだけハルピンの全体が無意味な空っぽなものに見えた。その中に一直線の道路と、申し合わせたようなモザイク式花壇を並べている露西亜人のアタマの単調さ、退屈さ、それは吾々日本人にとって到底想像出来ないくらい無意味な飽きっぽいものであった。その中で毎日毎日判を捺したような当番の生活をする僕・・・眺望と、散歩と読書以外に楽しみのない無力な兵卒姿の僕自身を発見する時、僕はいつも僕自身を包んでいる無限の空間と、無窮の時間を発見しないわけにはいかなかった。宇宙は一つのスバラシク大きな欠伸である。そして僕はその中にチョッピリした欠伸をしに生まれてきた人間である・・・・という事実をシミジミと肯定しないわけにはいかなかった。(35p)(1933.2 44)
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