氷の森          大沢 在昌


講談社文庫

 元麻薬捜査官の私立探偵緒方洸三は、代議士の娘堀江みつきの捜索を依頼されたが、外岡秀雄の息子秀志とでかけたまま行方不明になっている、ことが分かった。父からの注意でみつきは解放されたが、秀志と子分らしい舟木という男が事務所に乗り込んできた。打ち据えて追い返したが、翌日秀志が車の中で刺殺死体となって見つかった。舟木を追うと、暴力団の荒井が居所を教えてくれたが、舟木は自殺していた。
 外車の輸入会社をやっている伊藤から、自動車事故で亡くなったフィアンセの幸村鮎子の調査を依頼された。彼女の葬儀出席者リストに画家の細田涼子、望月興産の冴島道雄の名があった。外岡秀雄からは強引に秀志の死について真実を調べるよう頼み込まれた。望月興産の経営するデイスコ「ネピュラ」を通して、二つの事件と、みつき、鮎子さらにミキがつながっていることが分かった。みつきは再び姿を消した。みつきのマンション留守番電話を再生するとヨシオなる男が浮かび上がった。
 緒方は「秀志をやったのは舟木に違いない。しかし舟木にやらせるようし向けた人物がいる。そいつは、罪の意識を一切感じないで他人の弱みを握り、野望達成へと突き進む特異な犯罪者だ。ヤクザの荒井すら容易にあやつり、平然と殺人を犯しながら姿を見せぬ冷血な男だ。」と確信する。
 秀志の利用していた別荘を調査すると大麻の痕跡が見つかった。ミキの口から「姿を見せぬ冷血な男」の影が判明する。そのミキが輪姦されコカインでショック死した後、海に投げ込まれた。事件にはコカインの密輸販売が絡んでいると確信、その線を追っている内に荒井の配下石本、室戸に捕まった。その二人、荒井、元ボクサーで荒井の元で働く権藤との血まみれの死闘が始まる。次第にヨシオの実態が明らかになってくる。

 この作品の主人公は一方では姿をみせぬ殺人鬼「ヨシオ」である、ということもできる。ヨーロッパで、死んだはずの男がよみがえって来たのだ。その恐怖の下に蠢く人物と多くの対立劇を通して読者をぐいぐいとひきこんでゆくところが魅力である。「新宿鮫」の原点となった作品という。

なお巻末の関口苑夫の解説も、小説の本質を付いていて面白い。
・ 山本周五郎は文学のありようを「人間の生活全部をひっくるめた人間性という物を追求し、その中から何か真実なものを見いだそうとする活動」としている。(480p)
・ 「現在の日本社会を舞台に物語を作ろうとするときに、対立する相手側に、具体的な顔が出てこないんですね。敵を想定すると、人物の形を取りにくいことが多い。制度とか構造の中に埋め込まれてしまうんですね。」(佐々木譲)(482p)
などの意見が目についた。
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(1989 33)