首         横溝 正史


角川文庫

首にまつわる本格的な推理小説である。推理小説に首だけ、あるいは逆に首なし死体というテーマがあるが、これだけ工夫の余地があることを示したような作品、と感じた。

生ける死仮面
上田秋成の「雨月物語」の中に「青頭巾」という短編が入っている。その短編さながらに、古川小六は発見されたとき一糸まとわぬ死体と一緒だった。彼はそのデスマスクを所持していた。デスマスクから死体は、大地主緒方欣五郎夫婦の養子でヒロポン中毒、女になりたがっていた辰男ではないか、と考えられた。彼は辰男とおかしな関係になり、緒方の分家から迎えた妻光子と分かれている。
辰男の生みの親、本橋加代は言う。「死体は本当に辰男でしょうか。辰男なら盲腸の傷があるはずです。先代の遺言で、緒方の財産は、辰男が嫁をもらえば、すべて辰男に譲られる事になっていました。ひょっとすると欣五郎夫婦にどうにかされたのではないか。」
死体に盲腸の傷はない!やがて井の頭公園で生首が、ついで手、足が発見された。それをくるんであったボロは欣五郎夫婦のものと判明した。しかしこちらは不思議に胴体が発見されない!

相続順位一位の者を殺害し、二位の者に罪を着せようという、三位の者の犯行。

花園の悪魔
アベック向け旅館花乃屋旅館の花壇の中で全裸の女の死体が発見された。女は南条アケミ、ヌードモデルで犯行当日顔をマフラーで隠した男と間前後して来ている。男が旅館を出たことを目撃したものはいない。しかし、モデル仲間ナオミ等の話から、男は行方不明中の山崎欣之助ではないか、と考えられた。
新宿駅の一時預かり中のトランク。中から血のついた欣之助のオーバー、帽子、衣類、アケミの所持品などが発見された。ここにいたって、欣之助は女装して逃げたのではないかと、考えられた。
しかし金田一は、山崎の両親の訴えから別の角度で事件をチェック。女が男を装って、旅館に入り、本来の女に戻って出ることも可能だ、と考えた。

蝋美人
軽井沢で佐藤亀吉なる男が全裸の女性の死体を発見した。畔柳博士が、画家瓜生朝二の援助を得て、その骨から蝋細工による復元をはかったとき、皆はあっと驚いた。伊沢信造の妻だったが、夫を殺害して逃亡している女優の立花マリにそっくりなのだ。
蝋細工の評判に得意になった畔柳博士は、蝋細工を販売する様子で、伊沢家の面目は丸つぶれである。しかし金田一は、伊沢家に長年仕える女中の話から、立花が夫を殺害したとき、オルゴールの「乙女の祈り」が聞こえたこと、瓜生の小指がなかったことを知り、真実を掴んだ!


かって義賊十右衛門の首が乗っていたという滝壷の上にせり出した岩の上に、ロケに来ていた里村監督の首が乗っかっていた。やがて胴体がはるか下流、首なしの淵で発見された。
事件の夜、監督の里村、男優の内山、カメラマンの服部が滝近くのお篭り堂に泊まった。滝下の民家に清純スターの香川と助監督の土井が泊まっていた。里村等三人は酒をしこたま飲んで寝込み、内山、服部は里村がいなくなったことに気がつかなかったという。しかし彼らが飲んだ酒から睡眠薬が検出された。
同じような事件が昨年も起っていた。堂に篭っていた三人のうち、二人が睡眠薬で眠らされ、一人の首が岩の上に飾られた。その事実を聞き出した金田一は、犯人が犯行現場を偽装するために生首を利用したことにきづいた!
001226