角川ホラー文庫
昭和生命京都市店で保全業務にたずさわる若槻慎二は査定の仕事に忙殺されていた。自分の家に放火して保険金を受け取ろうとする者、対応が悪かったため、会社がつぶれた、慰謝料をよこせとすごむ者、何かと偽の病気を仕立て、入院給付金を盗ろうとする者などそこには金の亡者どもが集まる。彼は、幼いときに間違って兄を自殺に追い込んだと信じていることもあって、次第にくらい気分になって行く。
そんなおり、菰田重徳・幸子夫妻に呼び出された彼は、期せずして子供和也の首吊り死体の第一発見者にされてしまう。ほどなく保険金が請求される。顧客の不審な態度から他殺を確信した若槻は独自の調査を開始、重徳が指切り保険金請求グループの容疑者だったこと等を突き止め、重徳に疑問を深める。しかし調査に、夫妻からの執拗な嫌がらせに加え、警察の態度は煮え切らない。しかしまもなく保険金が下り、このときは解決する。
しかし弱く見えた幸子に次の夫の犯罪を予告する手紙を書いたところ、恋人の猫の首を切られるなどの嫌がらせ。そしてついに夫の重徳が作業中に誤って両手を切断してしまったという。三千万の保険金の請求が出され、幸子は「何かおかしなところがあるか。」とうそぶき、夫には「あんたの手はもうないのや。」とすごむ。幸子に焦点を置いて調べると、前にも子供が自殺するなど、不審な点が多い。ワルは幸子だったのだ。
昭和生命では意を決し、三善なるつぶしやを派遣する。彼は「まちがいなく人を殺してますよ。」と断言。若槻とともに出向き、幸子をさんざんに驚かす。
ところがその三善と若槻の恋人恵がいなくなった。ついに若槻が菰田の家に忍び込むと三善の首、床下には沢山の犬の死体、風呂場には気を失った恵。戻った幸子が異変に気づき、長い包丁を振り回し迫ってきて生きた心地もない。しかし幸い警察が駆けつけ、幸子が退散し、とにかく一命は助かる。
ベテラン勧誘員から話を聞いてくれの電話、遅くまで待っていて気がついた。あの電話は怪しい。気がつくと電話が切られていた。幸子がこのビルに忍び込んでいる。1階暗い中で対決、切りつけられた若槻は階段を登って逃げ、幸子は悠然と迫ってくる。手元の残った武器は消火器が一つ・・・・。
デイテールが群をぬいてすばらしく、保険会社の内包している問題点を鋭く描き出している。作者が大学をでて生命保険会社に勤めていた、と知りなるほどと思った。入院給付金の話、難癖をつけて金を取ろうとする中小企業の親父の話など、楽しませる。
そうした前提をふまえて本論に入って行くわけだけれど、ここでも主人公の性格付けと共にところどころ昆虫の生態等をつかった菰田夫婦の描写がすばらしい。同時に金石のr戦略、d戦略の話、サイコパス人間の話など作者の未来社会に対して一つの警告を発しているようで、非常に興味を引く。
話の過程で現れる高度障害保険の話、さらに潰し屋の話も目をひく。しかも奇しくもこの本が発行された一月後にあの和歌山の毒いりカレー事件が発生した。その意味では時代を見事に先取りしていた?とも言えようか。
保険を全面的に取り上げた作品として記憶に残るのはたとえば夏木静子の「遠い約束」などが思い浮かぶが、この作品の迫力には脱帽するにちがいない。
・絞殺死体と首吊り死体・・・顔面が赤いか、白いか、尿失禁後の位置、索溝の位置などの特色で区別。(110p)
・しかし人間というんは不思議なもんやなあ。そんな相手とでも、何度も顔を合わせているうちに、それなりの人間関係いうもんができてくる。・・・ストックホルム症候群(124p)
・背徳性症候群・・・情性欠如、爆発性性格、抑制欠如(139p)
・人間は、一人一人が、全く違う、複雑きわまりない宇宙だと言うことなの。(172ぱ)
・アメリカ精神医学界編「精神疾患の分類と診断の手引き」・・・B型人格障害(196P)
・ロンブローゾ・・・頭蓋骨の分類と劣等人種(198P)
・穀物商AM事件・・・ソア橋型犯罪(253P)
・一説によれば、母親の体臭や父のにおいなどを感じることができないために、感情の正常な発達が阻害されるのではないか(260P)
・ユングの夢世界分析(263P)
・マルタ・マルクの自分で足を切り落とした保険金詐欺事件(287P)
・ゴミムシをパラジクロルベンゼン入りの毒瓶に放り込んだ時と同じくらいの感情しかわいてこない。(366P)
・病的なペシミズム(371P)
・日本の社会全体が現在アメリカで侵攻しているような巨大なモラルの崩壊に直面しているからだ。精神的な価値を軽視し金がすべてという風潮、思考力や想像力の衰退、社会的弱者に対する思いやりの欠如、その全長は損害保険の分野ではもう始まっていた。損保業界ではすでに請求額の半分は詐欺であるとまで言われている。(384P)
・人間の精神に起因するモラルリスクと環境問題(384P)
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