クロイツエル・ソナタ   夏樹 静子


講談社文庫

昭和63年におきた女子高校生コンクリート詰め殺人事件に想をえた作品。作者はある男性の意見「もし日本で死刑がなくなったら、敵討ちが復活するでしょう。」に非常に感銘を受けたという。
片桐優子は、実は泉州祐一郎と麻理江の間に出来た子供である。しかし生まれたとき、麻理江が死の淵にあったため、片桐家に預けられ、その娘として成長した。祐一郎の血をうけたのか、音楽大学のバイオリン科志望で個人レッスンを受けていた。その優子が何者かによって拉致され、監禁され、暴行され殺された。
祐一郎は、優子が拉致される直前、犯人らしい男の乗った車を見かけた。捜査本部では付近の聞き込み等から普段から素行に問題のある夜間部学生浅田徹を逮捕し、祐一郎に面割りを頼んだ。しかし祐一郎は違うと否定した。実はまさにその人物だったのだが、徹が19歳と聞き、私的制裁を自分で行おうと考えたのだ。
捜査当局が徹を釈放すると、徹の兄浅田覚が泉州家を訪れ礼を述べたが、このとき祐一郎はおらず麻理江だけがいた。おりから優子が殺され、夫が自分から離れていく、と感じていた麻理江は、急速に浅田覚と近づき、ついに関係してしまう。
しかし祐一郎は、妻の浮気の証拠をつかんでしまう。彼は麻理江を徹底的に攻めつけると同時に徹に復讐すると打ち明ける。犯人の兄と関係した、と絶望した麻理江は、家出ののちに自殺してしまう。一方で浅田徹は、バイク事故で入院、植物人間になる可能性すら出てきてしまった。
麻理江には死なれ、復讐を誓った徹は病院のベッドで動けぬ、とあって祐一郎は怒りのもって行き場がない。そんなとき浅田覚が祐一郎を訪れた。「何もかにもこいつのせいだ。」と考えた祐一郎は、覚をだまして、別荘に連れ込み、新しく作った防音装置のついたリスニングルームに閉じこめてしまう。このまま飢えと寒さで苦しませて殺してしまおうと言うのだ。
麻理江が、自殺に追い込まれて行く過程がせつなく描かれている。
最後の結末をどのようにもって行くかは大分考えたのではないか、と思う。推理といったものはないが、話の展開の仕方にどきどきさせられる作品である。
020220