光文社文庫
行天遼子警部補とあか株検事の妻柊春子は、京都冬の旅としゃれ込み、松臨荘に一泊した。ところが備え付けの便せんにあったボールペン跡は「タスケテ コロサレ」と読め、しかも夜半、庭の古井戸のあたりに幽霊らしき影を見つけた。翌日警察が調べると古井戸からは女の死体。
早速あか株検事が駆けつけた。二人の泊まったホテルには、2日前に二十歳を少し過ぎた女性と、三十そこそこの裕福そうな女性が泊まっていた。そして三十そこそこは一人で帰り、浴衣から古井戸の死体は若い方の女性らしい。
三十そこそこは高級コールガールの総元締めをやっている中西美希子と分かった。さらに中西の住んでいる御室のマンションのフラットは人気スター赤羽良介であることが判明。もっとも彼はひどく吝嗇であったと言う。家賃取り立ては妻の(大谷)順子が行っていた。
さらに行方不明になっている中西美希子のマンション501号室で、(大谷)順子の撲殺死体が見つかった。中西美希子は消え、売春事業の資料になるパソコンの記憶装置はすべて消されていた。赤羽良介は当初撮影中で翌日電話で知らされて戻った、と証言した。管理人は(大谷)順子の死亡推定時刻は9時から11時、彼女は9時頃501号室に来訪したこと、さらに10時半頃赤羽良介が立ち去るのを見た、と証言した。502号室には72才の国井静乃と娘の由香里が住んでいる。二人が9時半頃戻り、9時50分くらいに悲鳴を隣室の悲鳴を聞いたと証言した。
こうして赤羽良介が逮捕され裁判となった。
ところが裁判で、国井由香里とボーイフレンド植村秀樹は、実は静乃に対し、帰宅時間をごまかすため時計を1時間ずらしておいた、と告白した。すると犯行時刻に赤羽良介は501号室にいなかったことになる!
しかしあか株検事は赤羽良介はいったんマンションを去ったと見せかけて戻ったのではないかと考えた。さらに中西美希子と(大谷)順子は一人二役ではないか、という大胆な仮説を立てた!また古井戸の死体は高級コールガールの一人であることが判明した。
この作品は前半分が事件の過程と赤羽良介逮捕まで、後半が裁判過程になっている。旅情といったものはあまり感じられないが、法廷シーンはなかなか迫力があり、面白い。話の展開は地味で、会話で状況を伝えようとしているため、時として冗長な感じもするが、全体、落ち着いた作品ではあると思う。夫が吝嗇のため、コールガール組織を運営、ただしそれが判明しては夫の立場に影響するから、別の人物に成りすましていた、という設定もなるほどとうなずけた。何となく江戸川乱歩の「陰獣」を思い出した。あちらは一人三役!
010325