毎日新聞社
高村薫の「神の灯」「黄金を抱いて飛べ」などを読むと、閉塞感あふれる既成社会に対する男たちの過激な反対行動が描かれ、その行動はエンドレスであり、達成してもそこにパラダイスがあるわけではなく、解決を見出さぬままストーリーが終わるというスタイルをとっているが、この作品でも同じ。
終戦直後日之出麦酒で部落民の差別に対して、抗議文を残して去った物井の弟清三、中途半端な警官半田、韓国人高、重度身体障害者レデイを娘に持つ旋盤工の布川等は競馬仲間で、ある時日之出麦酒社長城山恭介を誘拐する。清三の娘と歯科医の秦野の子孝之が日之出麦酒を受け、差別を受け失敗、孝之と秦野が自殺する話が伏線としてからむ。
誘拐犯は、人質は「350万キロリットルのビールだ。」と因果を含めて社長の城山を解放する。その後公式には六億円としながら、ビールに赤い色素を入れて脅すなどして、裏では二十億円を要求、獲得に成功する。警察は、合田を城山にはりつけ、その辺の事情を探ろうとするが、なかなか城山は尻尾をつかませない。
この事件を感づいた総会屋田丸善三は、かって、副社長倉田と十億円で縁をきると約束したにも関わらず、荒れ地の法外な値による買取りを請求してきた。田丸の後ろには政治家、投資会社など裏社会がつながっている。 事実を嗅ぎ付けた新聞社社員が消される。このまま田丸との関係を続けるべきか、かって屈した話や今回の裏の話がオープンになってもよいから正義を貫くべきか、城山は迷うが結局は後者を選択し、会社を去る。
誘拐犯は、結局は証拠がなく捕まらないが、合田は状況証拠からその仲間に半田がいることを確信し追跡、追いつめながら逆に刺されてしまう。犯人たちが二十億円を手に入れながら、発覚をおそれて使うことができず、生活も変わらないというところが、人の宿命の様なものを感じさせる。
・被差別部落出身者(上58p)
・要するに顔のない営業マシンが営々と働いて、いつのまにか、そのまま経営トップにのぼりつめる時代(上66p)
・もう一人の自分が<そのうちやめてやる>と虚勢をはっていた。半田は鼻白みながら<そう言い続けて何年だ>と思った。(上104p)
・上昇志向とやらの正体が、結局いい生活をし、贅沢なものを身につけることだったのなら(上108p)
・男の人生なんてつまらんな。こつこつ働いても、出世できなきゃ、死んでも窓際だ。出世したらしたで、心にもない弔辞でにぎにぎしくみおくられなきゃならない。(上178p)
・交差点の上についている速度監視カメラ(上194p)
・根源も論理も必然も欠いたまま、天皇とか、民主主義とか、差別といったそれぞれの塊は今や、車の排気ガスやカラオケの騒音に混じって、時代の直中に不可視の綿埃のように漂っている。(上359p)、
・誰も飢えていないところへ流れるニュースに、痛みは伴わない。(上421p)
・今日という日にやった仕事の一つ一つが自分の手を離れてどこかへ消えてゆくような気がするのだった。思えば三十六年間、要はそうした繰り返しだったが、企業で働くというのは、本質的にはそういうものなのだろう。(下41p)
・ベニコウジ色素(下67p)
・検事人生は表面だけのことで、実は、地歩を固めれば固めるほど、捨ててゆくものも多かっただろうと・・・(下294p)
・巨大証券と大手都銀の商法違反事件も、解き明かされたのは個別の事犯の個別のメカニズムだけであり、そのメカニズムを動かしている真の駆動装置は見えず、どこに、どんな形で存在しているのかも分からない。(下439p)
・インフルエンザウイルスの蔓延に似ており・・・・(下440p)
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