講談社文庫
この作品集は作者が「すべてがFになる」などで成功し、名が売れた後、出版社の要請に応じて無名時代に書き溜めたものをかき集め、一冊にしたんじゃないかと思う。わたしの目からコメントのしようのない作品も混じっていた。気に入った作品のみをコメント
まどろみ消去
五年前に夫を亡くした水木みどりは、寺の若い住職に家を売って静岡に引っ越したいと話した。住職は市価よりずっと高い2000万で買うと申し出た。その言葉を聞いて彼女は夫殺しの犯人が分かった。夫は自家の床下に埋められていたのだ。殺人の証拠の残る家を売りにだし、それを高額で買い取ろうとした者を犯人と断定するプロットはウールリッチあたりの作品にあったと思うがはっきりしない。
彼女の迷宮
推理小説作家が作品を書いている。被害者ははげのはずなのに死体は髪が生えていた、片足だったのに両足くっついていた、女性だったはずなのに髭が生えていた、そう書いてから作家は解決編に悩む。あげくのはて死んでしまう。読者は何が何だか分からない。人を食っているが面白い視点と思った。
真夜中の悲鳴
真夜中までも熱心に実験する阿竹スピカ、そのデータに異常な値が洗われ始める。大発見かと意気込むが、どうやら何者かが地下で深夜作業しているらしい。それがノイズとなっているのだ。スピカは一人地下への階段を降りて行く…・。恐怖感が素晴らしい。
やさしい恋人へ僕から
僕が、スバル氏について記述するという形を取っている。ふとしたことがきっかけでスバル氏が僕の下宿にやってきた。二人でおろしトンカツを食べた、ビールを飲んだ、下宿に戻った、その後どうなったかなんて恥ずかしくて書けないよ。あれから十五年、スバル氏はまじめなサラリーマンしてる。一寸だけ太ったかな。まあ、そんなのも別に良いの。今でも大好きなダンナ様。
書き手が男だと思わせて最後に女性と分かる仕掛け。ただ、それなら僕の名前篠原素数(数学者らしいネーミング!)はやめたほうがいいかもしれない。かおるとか千秋とか男とも女とも取れる名前にしたら…。
ミステリー対戦の前夜
気がついてみると密室の中に私と死体。私は犯人探しを始める。犯人は私に決まっているのに…・。何だか妙な感じがする。最後の読者を西之モエに限定した推理小説って、すごく面白いアイデアだと思う。もう一つ、前半推理小説談義のうちガリバー旅行記で鍵穴から小人がぞろぞろ入って行く、七人の小人全員が犯人の「白雪姫の部屋」なんか、ひねりをいれれば使えそうなアイデアだ。
誰もいなくなった
大学ミステリーツアー。近くの屋上から望天広場を眺めるとなんとインデイアンたちがたき火を囲んで踊っている。ところが広場に戻ると、わずかなたき火あとだけでインデイアンは消失!発泡スチロールのインデイアンは燃やしてしまいました、というトリックが面白い。わたしはホロスコープの応用ではないか、と思った。
悩める刑事
刑事三枝モリオは、この仕事は自分に向いていないいんじゃないかと迷う。幸せな家庭だが妻がやたらに事件の内容を知りたがるのも困り者だ。とうとう彼は辞表を出して受理された。一方共稼ぎの妻、キヨノも悩んでいた。来月希望のポストに就けそうだが、夫の事を思うとそうも行かない。キヨノは近道をするために団地のなかを通り抜けたところを襲われた。さいわい張り込んでいた夫たちに救われた。モリオは、キヨノに辞職したことを告げた。キヨノは今いつ自分が捜査一課に配置替えになることを打ち明けようか、と悩んでいる。
キシマ先生の静かな生活
作者の恩師であるキシマ先生の思い出を時系列的につづったもの。学者先生だったキシマ先生が大学を辞めた理由、奥さんになった沢野さんが自殺した理由、この辺が分からない限り、作者がキシマ先生を理解したことにはならないと思う。
000731