茉莉子    夏樹 静子


中公文庫

体外受精を扱った作品であるが、事実関係が非常によく調べられている。推理小説としては一種の叙述トリックである。
話は祇園の舞妓絹子が子が出来ぬ質であったため、イギリスで体外受精を受け、茉莉子を産む話と、木野照代の娘茉莉子が、あるとき雛壇の前で知らない女性と一緒に映っている写真を見つけ、自分の出生に疑問をもち追求する話を交互に描いている。

祇園舞妓の絹子は会社社長壺内に愛され、自分たちの子供がほしいと告白される。しかし「卵管采周囲癒着」という診断で、このままでは子供を作れないことが判明した。そこで壺内の勧めでイギリスにわたり体外受精を行うことにした。

大学生でありながら、茉莉子は母親照代の影響で、芸妓を勤めている。お雛様を飾ったとき一枚の写真を発見した。雛壇とその右横に見知らぬ女性、そして3才くらいの女の子。雛人形は今日取りだした物と同じ、女の子は思い出のある鳩の着物をきており、自分に間違いないようだ。この写真は、どこで撮られた?この女の人は誰?

体外受精は何度も、何度も失敗した。しかし最後に3個が成功し、そのうち二つを子宮に移植し、他の一個を凍結保存する事にした。幸い2個の内の一個が無事に着床、細胞分裂を繰り返し、茉莉子が生まれた。

茉莉子は、男雛と女雛の位置が通常と反対になっていることを手がかりに、友人宗方やお客の白井等の助けをえて写真の撮影された場所京都宝ヶ池付近を探し当てるを。しかし彼女は子供の時から熱海で育ち熱海の幼稚園に行っている。あれが私とすると私はお母さんの子ではないの?

しかし絹子は弱くやがて急性骨髄性白血病で他界してしまった。茉莉子は壺内の昔なじみ木野照代のもとに引き取られた。ある時ゆうぎ会で、どうしても所用があり、照代は茉莉子を知り合いの母親にあづけた。壺内がこちらに来るとの電話を受けた後、ふと玄関を見ると閉じたドアの内側に兎の耳のついた帽子をかぶった茉莉子がいた。

茉莉子は、戸籍を調べる。母(妊婦)木野照代、父壺内香平…・やっぱりお父さんと、お母さんは間違いない?母子手帳をのぞき見る。照代はO型、私はAB、手帳の注には「OとAB、MとNとの間には母子関係は存在し得ないので、このような組み合わせは除外した」

最後の一瞬死を考えた茉莉子の頭に浮かぶ想念「でも、自分が何のために生まれてきたかなんて、きっと誰一人わからないのだ。この世に産み出された者は、ただその生命を引き受けて生きるほかはない」それが作者の結論であったように思えた。

・ いったん実子として認知した子を養子とすることは法律上出来ないから、認知せずにいづれ養子にいれる。(208P)
020312