迷犬ルパンの名推理       辻 真先


光文社文庫

主役は、正義感だがオッチョコチョイの警視庁捜査一課朝日正義刑事と、ダーク・セーブル犬だが野良、犬迷犬ルパンの名コンビである。
ヤマト放送では、DJの合間、タレントと呼ぶのもおこがましい、ヒヨコ以前、卵以前、口の悪いデイレクターに言わせると「まだザーメン」の川澄ランがゲストの近江由布子、タレントあかべ魚目、ユノキプロのマネージャー田丸等が昨年交通事故死した環みやの幽霊話などに花を咲かせる。そのランの親友が朝日刑事。
高三のランに頼まれて、柚木冬美と彼女を乗せ、なんと今日は伊豆高原へのドライブ。別の車におばあさんでユノキプロの女帝と言われる八千代、冬美の父でユノキプロ社長柚木昌三、妻のとみ乃、冬美の弟夏也が乗る。昨日八千代は夏也とけんかし、殴られたとかで傷をしている。ところが城ヶ崎海岸散策路の釣り橋で八千代が橋から落ち、消えてしまった!朝日が飛び込むがカナズチ、朝日を海から助けたおかげでルパンは一躍有名になった。
一段落して、八千代の見つからぬまま、高原の別荘に向かうと、火事だ。あわてて飛び込むと、なんとグリルで焼かれた八千代の黒コゲ死体が見つかった!。海で死んだ女帝が、山で見つかる? 謎は深まる。
捜査が停滞する中、今度は世田谷柚木邸の一室で電気スタンドのコードで絞殺されたとみ乃夫人の死体が見つかった。ドアもバルコニーに出る戸も施錠された完全密室である。今回も見つけたのは最初にバルコニーから飛び込んだルパンであった。さらに事情を知っていると見られたあかべ魚目が、リハーサル中に毒殺された。青酸カリである。
しかしユノキプロ関係者の一人緒方早苗の人物像を洗い始めたあたりから事件がほぐれてきた。彼女は房総御宿の出身で、一時は海女になってほしいと頼まれたことがあったくらい泳ぎがうまかった。さらに始めてだしたLPのジャケットには「なんでもやっちゃうわれらがサナエの七化け天使!」と書かれていた。つまり変装がひどく上手なのだ。城ヶ崎海岸から落ちた八千代は替え玉ではなかったか。

本格ながら、現代的なギャグが次々に飛び交うユーモア推理小説。何と言ってもルパンの活躍が魅力。朝日刑事をゲソやアイスクリームを横取りしたり、靴を隠したり、小便を引っかけたり、躓かせたり、それでいて事件のポイントになると咆えたり、うなったり、尻尾を振ったりで意思を伝え、事件解決に協力する。その上ランの飼うマルチーズ犬サファイアと愛をささやき、チェシャア猫と縄張り争いをする。最後には朝日刑事をして「ルパンめ、いつかホットドッグにして食ってやる!」と言わしめるのだが、なかなか食われれそうもない。
小説は面白ければいけない、の考えが底の底まで生きている作品と言えよう。

・ およそ捜査の大原則は
いつ・どこで・だれが・だれといっしょに・だれに対して・なぜ・どうやって・何をしたか?
この八つの疑問を解明するにある。(161P)
・ 「じゃあxxは、三好かおると電話している最中に、被害者の首をしめたと?」
「テレビ見ながら勉強する、ロック聞きながら、本を読むご時世ですもんね…。」
ランが感に堪えぬような面持ちでいった。
「電話しながら殺す時代なんだわ!」(312P)
・ ピアノの自動演奏装置(317P)
・ 転送電話によりトリック(326P)
・ 犬齢Xを人間齢Yに換算する公式は
Y≒15+5(X−1)(358P)
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