講談社ノベルズ
私の名前は大河原番三、県警本部捜査一課の警部だがこの短編集では引き立て役。主役はよれよれスーツにもじゃもじゃ頭、古びたステッキがトレードマークの天下一大五郎という設定のショートショート集。読者までいれた軽妙、物事をすこしはすかいに見たような文章とおちが面白い。真面目に読むと肩すかしを食わされ、苦笑させられること必定。もっとも最後に私を犯人に仕立てては今後続編が出そうになく、それが読者には癪の種。
密室宣言
奈落村の作蔵が心張棒をかませた密室で死んでいた。前夜は雪。雪の重みで家が微妙にゆがみ、その結果玄関の戸が開かなくなったのです。犯人はそのことを計算に入れて、かませてあったかの様に心張棒を戸のそばにおいておきましたから。
意外な犯人
犯人牛神氏は、病気治療のため脳手術を受け、右脳に別人格が生まれました。この別人格が主人格を憎む様になり、最後はついに、ナイフで胸を突き刺しました。これは決して自殺ではありません?
屋敷を孤立させる理由
矢加田氏は家に大腰氏を我々と共に呼び、酒を振る舞いました。気がつくと大腰氏がいない。家の後ろに丘の上に行くリフト、それで上に行くと大腰氏の撲殺死体。しかし運んだ足跡がない。実は家全体が丘の上と下を行き来しているのでした。
最後の一言
W、E、Xと読めるダイイングメッセージ。実は逆さまから読むと、ヤヨベに読め無くもない。側に休、王、沢の文字。これは既存の文字の横にイとシを書いたもの。二つ続けて読むと、イシャヨベ。
アリバイ宣言
アリバイ崩しの方法:「私の鉄壁のアリバイがくずせますか。」「もちろん。日本アルプス縦断超特急を使ったんです。」「何を言う、そんなのは時刻表に書いてない。」「ついさっき開通したんです。」「待ってくれ、そんなのには乗っていない。」「見苦しいですよ。文句なら作家に言って下さい。」「じゃせめて私のアリバイトリックを聞いて下さい。」「聞きたくない。」「聞いてくれー。」
「花のOL湯けむり温泉殺人事件」論
もっと複雑で巧妙なトリックが使われ、差別問題に関わる微妙な動機があるんだぞ。それがお茶の間むけ2時間ドラマにするためにあんな簡単なトリックと動機に変えやがって。何、おれが潜水艦にぶつかって死ぬ?そんな馬鹿な。何だって、自動車メーカーがスポンサーだからそうせざるをえない?
切断の理由
ふといなくなった女がバラバラ死体で発見された。天下一は全部集めて切断箇所を調べた結果、SMプレイで使う縛り型に一致と見抜き大人しい郵便局員を逮捕。「どうして切断したんだ。」「何となくです。」切られた後をよく調べるとミシン目に後がついていた。
トリックの正体
すりかわりは推理小説ではよく使われる。しかし男が女に化ける、なんて言うのはいくら文章表現がうまくても分かってしまうのは当たり前。
殺すなら今
離れ小島。蛸田八郎の娘ノリコと魚沢ひれ子の息子鍋男が結婚することになった。童謡にのっとってノリコの昔の男を八郎が殺す。第一の殺人。鍋男の幼女趣味を隠すためにひれ子が殺す。第二の殺人。こんな風に9人殺されてしまったが、謎解きは完成。ところが次の日には結婚衣装をつけた死体が島のあっちでも、こっちでも。
アンフェアの見本
大黒一朗が習志野権兵衛から贈られたチョコレートを食べて死んでしまった。宛名書きは緑色のボールペンで書いてある。駆けつけた警部がその書斎のゴミ箱からボールペンを発見、さらに長男次郎が地下のシェルターで殺されていた。犯人は外部から侵入した形跡はない。内部とすると一朗がチョコレート好きで地下室の存在を知っていたこと、次郎が殺されたとき屋敷内にいたこと、ボールペンをゴミ箱に捨てられたこと、と言う条件が出てくるが、そう言う人間は家族にはいない。犯人は・・・・警官です。
禁句
「首がなかった訳ですか。死体をヘリウムガス入りの風船で飛ばそうとしたんですけど重くて上がらなかったんです。それで首を切りました。」「どうして鋸をもっていたんだ?」「車のトランクにたまたま入っていたんです。ラッキーでした。」「何がラッキーだ。そんなご都合主義な!」「ご都合主義なんてトリック小説にはつきものでしょう。」「あっ」「あっ」「ななな、何を言うか」「失礼な」「ふざけるな」「ご都合主義なんて」「そんな」「禁句を」我々は、雲山の頭をポカポカ殴り始めた。
凶器の話
町田清一郎が刺殺死体で発見されたが、凶器が分からない。氷の刃かガラスか塩か・・・そうじゃない、血を固めたのです、と得意の天下一。「鑑定の結果、実は墜落したときに自分の骨が刺さって死んだんです。」でも天下一が見立てた凶器、否定するわけにはゆかないよな。
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