光文社文庫
推理小説作家、江葉章二が、ダンスの相手をしてくれた花井秀子と話していると、突然大学時代に家庭教師をしていた白河ミレイという女の子が割り込んで来た。そして誘われるままに彼女の家に行くが、ちょっとした隙に、足に鉄の鎖をつけられ監禁されてしまった。
ミレイの父白河澄人は、ミレイが幼い頃、妻に先立たれ、後妻に田代江理子をえた。しかしその後数年たって、白河は風呂場で倒れ他界した。医者の見立てでは心筋梗塞であった。しかしミレイは江理子が父に毒を飲ませ殺した、と考えているらしく、江理子の居所を執拗に聞いてくる。答えられずに監禁の日々が続く。
江葉が監禁されていた頃、ハイツ麻布マンション前で、同マンションを訪れ、出てきた女性が車にはねられて亡くなった。女は田代江理子だった。しかも田代が訪れたらしい203号室で若い男が鈍器で殴られた上、首を絞められて殺されていた。男は段内敬士といい、最近ある文芸誌に「死体と口紅」なる作品で応募し、佳作を勝ち取ったばかりであった。
やがて警察の捜査が進み、江葉が発見される。捜査陣は、段内殺しについては、田代の犯行であろう、犯行後現場から立ち去ろうとしたときに交通事故にあったのだろう、と考え始める。しかし秋宮警部補はなにかしっくり行かないものを感じる。動機がない。現場に落ちていたLLサイズのパンテイの説明がつかない、等々。
段内が子供の頃、女性暴行を繰り返しながら、16歳以前をたてに逃れていたこと、ミレイもその被害者だったことが明らかになり、ミレイ犯人説が出るがそれも矛盾が多い。すると江葉が…。しかし南京錠と鎖で重い金庫に足を固定されていた彼が、どうやって4キロも離れた殺人現場に行くことが出来たのだろうか。
土屋隆夫の作品は文学作品としての面白さと胸のすくようなトリックを供えている。この作品も例外ではない。あわせて著者の少年法の矛盾に対する怒りを強く感じさせる。土屋隆夫…1917年生まれ、この作品が出た99年に82歳、頑張るなあ、とただただ唖然!
020205