文芸春秋ハードカバー
1995年9月新宿のバー「エル・ビエント」の経営者サンテイこと織部まさるは、ファロアナ・マクニコルの美貌と、ギターの音色の酔いしれる。さらに面談して彼女がもう死んだはずのエル・ビエントの新しいギターを持っていることに驚く。あの忘れがたい独特の音色を持つエル・ビエントのギター!織部は、同じくエル・ビエントに同様に興味を持つファロアナの誘いで、かってエル・ビエントが工房を持っていたスペインアルメリア県パロマレスを訪れることを決心する。
1965年12月パロマレス上空で空中給油を行っていた米国空軍のB52GとKC135Aが衝突、墜落炎上したが、そのさい積んでいた核爆弾4機を落としてしまった。そのうち3個は比較的簡単に回収されたが、残りの一個がなかなか見つからない。安全装置がついているとは言え、核爆弾が落下したなどとの情報が漏れ出もしたら大変と、折からソ連と軍縮交渉中のアメリカは軍隊が地元警察と共同で必死の捜査作業を開始する。模擬弾が投下され、位置を推定しようとするも失敗。やっと海中の岩棚に不安定な状態で浮くともなく漂っている核爆弾を発見するが今度は引き上げが大変。
パロマレス・・・・海辺のこの小さな村には「カンペシーノ」という小さなバーが1件、イギリス人画家フランク・バージェスと美貌の妻ジョゼフィンがメイドのブレンダとともに住み着いていた。またホセ・リートこと古城邦秋は、エル・ビエントにギターを作ってもらおうと、トマト栽培業者トマス・ロドリゲスの元に住み込み、エル・ビエントの工房に入り浸っていた。そしてこの核爆弾落下騒ぎ。
密かにこの村にひそんでいたソ連スパイ「ミラマル」は当局に得点を上げるチャンスと張り切る。核爆弾が落ちたという極秘情報が噂となり、アジビラまかれ、捜査過程がプラハに本拠を置く秘密放送局から次々と暴露されて行く。米国軍隊は安全を叫び、当地でとれた魚や野菜を食って見せるまでの茶番を演じるが住民の不安は収まらない。
果たしてミラマルは誰なのか。最後に核爆弾を爆発させるための鍵を巡ってエル・ビエントが逮捕され、謎のミラマルと古城が対決・・・。スパイは敗れ去った様に見えたが・・・・。
再び95年、サンテイとファロアナは唯一65年当時を知るパロマレス村長夫妻を訪問する。恩讐を越えてギターの謎、誰が誰なのかが最後に明らかにされる・・・。
プロットはともかく、作者のギターとスペインに対する思い入れの深さがこの小説の魅力。現地を取材して得られた丹念な情報が作品の厚みを増している。自分の書きたいロマンを、小説という形を取って表現して見せたい、そんな作者の思いが伝わってくるようで楽しい。
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