網膜脈視症・睡り人形・就眠儀式 木々 高太郎


日本小説探偵全集7

網膜脈視症
 晩秋、大心地先生の元に母親に付き添われて九歳の松村真一がやってきた。「この子は神経質で困る。最初私に懐いたが、三・四歳を境に父親に懐き私に冷たくなった。そのころ非常に馬を怖がったが、その後は鼠や虫を怖がるようになった。上海の父親が急に帰ってくると火が見える、炎が見えると騒ぐのです。」鼠の死骸を見せる、父親、母親の名前への反応時間を調べるなどして出した教授の結論は父親恐怖から来る動物恐怖症および網膜脈視症であると診断され、家庭内事情を調べた。
 すると真一の父真安は三歳の時に亡くなり、妻美代子は平助と再婚した事がわかった。そして診断にあたった岡村学士が平助に襲われた。かって財産と妻をねらって、平助は真安を殺したのだが、真一は全てを見ていた。それが引き金となって・・・。(1934.11 37)
睡り人形
 西沢先生の奥さんは優しい人だったが嗜眠性脳炎らしい症状をおこし、いつでも寝ているような状態が続いた後、亡くなった。先生はすぐ看護婦だった女性を奥さんに迎えた。そして突然大学を辞めてしまった。それから10年、東北で落ちぶれて死体となって見つかったがその告白書には恐るべき事が書いて合った。
 「私はある強力な麻酔薬を発見した。それを妻の体で実験したところ、思いのほか作用が強くて死んでしまった。松子(看護婦)と結婚したが、彼女を独占しようとするあまり、またわずかにあの薬を用いた。薬は十分すぎるくらい効き、彼女は眠り続け、その状態で子供まで産んだ。しかし私の生活はどんどんおかしな方向に進んでいった・・・・。」(1935.2 38)
就眠儀式
 海岸で静養している大心地先生に川本君が相談に来た。松代一家の娘水代子は最近家中の刃物を全て紙で覆い、腕時計等は机の中に隠し、応接間のドアは必ず半開にしなければ寝られなくなった、というのだ。先生は、就眠儀式と呼ばれる病気であるのは明らかとし、川本君の水代子への愛を発見し、治療するよう求めた。
 家庭の事情を調べるとお父さんが、最近脊髄の病に冒されているらしい高田という男と良く話し合っていることが分かった。ところがその高田が大水の日に事故で亡くなった。水代子の病気はこの高田の出現と何か関係がありそうだ。(1935.6 38)
柳桜集・緑色の目
 ドクター・カナヅの寄宿する家の少女ベアテは黄疸にかかっている。彼女の父は、薬を20錠飲み、その後下剤をかけろ、と医者の指示書に書いてあるという。しかしベアテがのぞいたところ何も書いてなかった。ところが覚醒せず、カナヅの努力もむくわれづ死んでしまった。しかしベアテと恋に落ちたカナヅはしばらくして指示書が黄色いインクで書かれており、殺人であったことを発見する。黄疸にかかっている少女には白い紙に書いた黄色い文字が読めない!
 この作品は森鴎外の「舞姫」を参照にしたと言う。一度読んでみたい。(1936.8 39)
柳桜集・文学少女
 幼いときに母に死に別れた少女ミヤは文学少女だった。ミヤは家で薦められる結婚をした後、口裏あわせのうまい青年と駆け落ちした。継母の問題もあり、次第に虚無的になったが、一人娘の神経質な状態を大心地教授のもとに相談に行ったところ文学の才に注目された。先生から左翼の作家丸山氏を紹介されたが、「爬虫」の剽窃問題を招く。丸山氏から送られた小切手の扱いを巡り、夫に薬店でメチルアルコールを買ってきて飲ませたところ死んでしまった。この事件は彼女に父が死んだ事件を思い起こさせた。
 ミヤは司法当局に追求されるが、この事件を契機に文学者としてのミヤの名声は一気に高まった。しかし病魔が彼女を冒し、死が近づいてきた。しかしミヤは教授に「先生、痛みなどはなんでもありません。私は始めて人生を生きたいという希望に燃えてきました。芸術という物は、私の生涯を苦しめ、悩ませましたが、それがために人生を愛しました。」(1936.10 39)

991024