新潮社ハードカバー
大正中期、土佐櫻が浦月夜見岬沖に白い異人船が現れた。海女のりんはそこで異人(イタリア人)エンゾに出会い、彼が見たこともない潜水服に身を固めて、海底奥深く潜り、高価な桃色珊瑚を取るところを見て親しくなった。そして海底に亡くなった母の遺体を発見して、おぼれかかったとき、彼に助けられた。
しかし幼友達でりんに淡い恋心をいだく健士郎が、りんを解放しているエンゾを見て暴行していると誤解した時から、事態は急展開。かねて異人に珊瑚樹を取られることを快く思っていなかった多久馬が中心になって、若い衆をあつめ、異人船を襲い、船を焼き、あの桃色珊瑚をうばってしまう。乗組員のうち、エンゾだけは重傷を負いながら助かり、鰹節の薫製小屋でりんと健士郎にかくまわれ、解放される。介抱する内に、りんはエンゾを恋し、いつかエンゾのいう南の国に行きたいと願うようになる。
若い衆兼吉の死で多久馬の隠している場所を知った健士郎は、りんと桃色珊瑚を持ち出し、エンゾにかえす。ところが生臭坊主映俊からそれを聞いた多久馬はエンゾを襲い、補陀落渡海によせて海に流す。死体を回収したりんは大いに悲しみ、エンゾが永遠に存在するよう薫製にしてしまう。
そして台風の日、村を山崩れが襲い、りんは健士郎のとめるのも聞かず、南の国めがけて船をだす。船に桃色珊瑚が乗っていたことから、多久馬を中心に若い衆が追うが、皆海の藻屑と消え・・・。
なくなったはずの高価な珊瑚樹を異人船が手に入れた結果起こった悲喜劇を、生臭坊主の補陀落渡海願望と併せて描いているところが非常に面白いと思った。エンゾの死体をを映俊の変わりに棺にいれ補陀落渡海船に乗せてしまう話、りんがエンゾを木乃伊にしてしまったと言う話にすごみがあったように思う。またサイドストーリーになっているさねと映俊の情事も興味深い。人間というのは時に気分を変える物であり、また寂しがりであるところがよく描かれている。
全編三人称スタイルで書かれ、プロットの取り方、方言を巧みに取り入れた地方色の発揮にも成功している。エンデイングは山妣と同様、悲劇で終わるが、健士郎の未来に夢をいだかせ、りんがどうなったかと思わせるところにロマンがあるように思った。
・西洋風の建物を建てて、電車を走らせて、車に乗って、洋服を着て町を歩く。それが、よくなったということか。(258p)
・鰹は短い命をまっとうして海の中で腐るのと、鰹節になるのとどちらがいい・・・・そんなことを言いやせん。ただ、人生、一遍きりしかねえ。あんまし先のことを考えんで、好きなことをやったがええ、と思うだけよ。(324p)
・補陀落渡海の真実(399p)