無伴奏            小池 真理子


集英社文庫

 私は、この二十年間、あの事件から逃げて生きてきたが、苦い感傷に耐えきれず舞台となった杜の都仙台を訪れる。
 あのころ日本は、学園紛争、デモ、フォーク反戦集会などで揺れていた。私、野間響子は、17歳高校三年生、ジュリーとレイコと組み、授業などそっちのけで制服反対闘争委員会を作るなどトガッタ生活をしていた。喫茶店無伴奏で、授業にも出ずのんべんだらりと一緒に暮らしている東北大学学生関祐之助、堂本渉と知り合う。祐之助にはエマがおり、私はバロック音楽に興味をもつ渉と関係を深めて行く。
 私は年老いた叔母の元で暮らしており、叔母や祐之助がいないときにそれぞれの家で密かに逢う瀬を重ねるようになった。大学も受験せず、親からは勘当直前になるが、叔母のとりなしで私は浪人生活を送るようになった。そしてついに渉との深い関係。しかし私たちの行為を身じろぎもせず眺める冷たい目・・・祐之助だ。一方エマは私に妊娠を告げた。
 やがて私は、祐之助と渉のホモ行為の現場をかいま見て、絶望に襲われる。また勉強に身が入らなくなる。やがてエマが殺され、祐之助が逮捕され、渉は姿を消す・・・。
 謎が提示され、それが説かれるのだから推理小説ということもできるが、本質的には60年代という時代相の中で描いた素晴らしい青春小説だ。青春時代の問題意識、心の動き、行為の不確かさ等が、女性らしい繊細さで描かれ、群をぬいている。
 ところで以下は私の個人的感想。それにしてもトガッタ女学生、こんな女学生がいまでは母におばあちゃんに成っている。自己中心主義の大人とそれに教えられた子供が増え、世の中よくなる訳はない。作者は、当時軽蔑しきっていた親や教師を、世間の垢をたっぷりとつけ、その立場に立ったいま、どう考えているのだろう。

・ハイミナール、ブロバリンによるロマンチックな自殺(129p)
・人が死のうとするときの本当の理由なんか、本人以外、分かるはずがないのかも知れないわね。(274p)
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