斜め屋敷の犯罪      島田 荘司


光文社文庫

オホーツク海を見下ろす高台の上に南北に5度ほど傾いた「斜め屋敷」と呼ぶ風変わりな建物が建っている。建てたのはハマーデイーゼルの会長浜本幸三郎で、娘の英子、住み込み運転手早川夫婦、コックの梶原と共に住んでいる。
地上3階地下1階の建物で、南に面した中央が吹き抜けになっており、15室ある。階段を上り詰めたところに跳ね橋があり、それが幸三郎が住んでいる東側の塔と建物本体を結んでいる。跳ね橋の起点の斜め下3号室は、骨董品室になっており、幸三郎のあつめたおびただしい天狗の面で埋め尽くされている。
クリスマスの晩サロンは、多くの招待客でにぎわっていた。女と見れば手を出さずにおかぬキクオカ・ベアリング会長菊岡栄吉、秘書の相倉クミ、菊岡のお抱え運転手上田一哉、同社の重役金井夫妻、浜本の付き添い医師の日下瞬、学生などである。
翌日運転手の上田が、1階11号室で登山ナイフを胸につきたてられて絶命していた。しかも死体は両手を広げ、両足をほとんど直角に曲げた奇妙な形をしている。さらに面白いのは11号室に向かう雪の庭に間隔を置いて木の棒が2本、幸三郎収集のバラバラに壊されたゴーレム人形が散らばっていた。部屋の鍵はカバン錠でおりていた!犯人はどうやって現場に向かったのか、密室はどうして構成されたのか、さらに犯人の体は何をあらわそうとしているのか。いかにも推理狂好みである。
稚内警察署から二人、さらに応援に札幌署からあの牛腰佐武郎部長刑事ら2名が到着する。ところがこの事件の解決の糸口すらつかめぬうちに翌日地下の14号室で菊岡栄吉が同じように登山ナイフで刺されて死んでいた。これも完全な密室、開口部といえばベッドの上にある二十センチ四方の換気の穴のみ!
音を上げた牛腰刑事等は東京警視庁の中村警部に相談する。ところがやってきたのは御手洗潔というあやしげな占星術師とその友人の石岡なる男。御手洗はしたり顔で「もうこれ以上殺人は起こりません。」と宣言。ところがその晩早速医師の13号室で日下瞬が刺殺された。今度も密室、しかも換気口までベニヤ板でふさがれているではないか。そして遺書らしきもの。「浜崎幸三郎は必ずや復讐を受ける!」その夜幸三郎の一人娘英子は、菊岡のいた14号室に寝ることになった。
ここでエラリー・クイーンばりに「私は読者に挑戦する!」と来た。そう簡単に分かるわけはない!仕方ないから読み進める。
御手洗が骨董品室にあるゴーレム人形の衣装に隠れて、じっと待ち受けていると…・・。夜もふけた頃、何者かが天狗の面をはずしに来た!

犯人の目的は菊岡殺しだけだった。氷柱で固めたナイフを、塔のてっぺんから階段に沿って滑らせると、階段、天狗の鼻が作る滑り台、階段、換気扇と通ってベッドの上のターゲットにぶすりという仕掛けである。まったく度肝を抜かれた。
しかも日下殺しは存在せず、周囲に恐怖を撒き散らそうと御手洗が仕組んでやらせたことなのだった。「そして誰もいなくなった」の犯人みたいに死んで見せたのである。(死体処理に、皆関心はなかったのかなあ。)上田殺しは菊岡殺人のめくらまし。しかし屋根から雪を落とし、人形をばらまいて足跡を消すという手法は面白い。(自然に降った雪と屋根から落とした雪は形状が違いそうな気もするけれど…。)またカバン錠は、砲丸と遮断機風に上下する金具を糸で結んでおき、斜面に沿ってゆっくり砲丸が転がる力を利用して閉めるのである。死体の妙な形は手旗信号でダイイングメッセージなのだそうだ。

実現の可能性があるかどうか、と言われるとあやしいが、大型滑り台みたいな氷柱コースターが何と言っても大トリックで面白い。本格推理の名に恥じない。もっとも動機に関してはいろいろ説明されているが、どうも弱い感じがする。
(1982)
000520