ねじれた部屋         土屋 隆夫


光文社文庫

しつこい自殺者
 夫の浩輔は出張中、千枝が夜半ブザーの音で目をさまし、外に出ると庭の松の木の下におミネが倒れている。おミネは、父親同志が知り合いだった縁で、庭の物置に居着いてしまった婆さん、息子の留吉の結婚生活は邪魔する、悪口は言うで出ていってもらいたいのだが、すると法外な立ち退き料を要求する厭な奴。千枝は、ミネが死んでいると思ってあわてて警察に連絡、ところが生きていた。このまま死んでくれれば、と思って手を伸ばしかけたところに警察がきた。さんざん毒ついて警察が帰ると物置小屋から見ていたらしい千枝の西山との浮気を持ち出し、今度は強請始める。千枝は、翌日、西山とはかって婆さんを殺そうとするが・・・。ブラックユーモアにみちたピカレスクである。
泥の文学碑
 「盲目の鴉」(1980)のベースになった作品。評論家水城は、田中英光全集の評論を担当することになり、情報を持っている人を求めたところ、信州の若い人妻の父が田中の起こした死傷事件の担当警察官だった、と申し出てきた。密かに殺意を抱く女性の要求に応じ信州に向かう・・・とここまでは同じ。この作品では毒入りジュースを用意されるのだが、誤ってその女性が飲んでしまう。動機は水城に捨てられ、自殺した妹の復讐。
夜の判決
 しがない公務員の夫は出張中。独り寝をかこっていた初子は夜中に突然侵入してきた男に犯され、復讐を誓う。ところが翌日砒素を飲んで自殺してしまった。刑事の前で、夫は探し出した妻の日記を見て号泣する。・・・ところが裏があった。夫は別の女とできていて、妻に離婚させるために、他人を装って犯した。
天国問答
 セールスマン大貫佐太郎の妻信江が、玄関の土間で死んでいるのを、夫の佐太郎が発見した。怨恨、痴情、変質者などの線が消えると疑いは夫の佐太郎にかかった。しかし彼は娘の三保子ちゃんと映画館に行っていたという。ところが三保子ちゃんはずっとお父さんと一緒だったが、後ろのおばさんと話しており、お菓子をもらったという。おばさんと佐太郎の関係、眠り薬を子供に飲ませて映画館を抜け出し、自宅に戻るトリックが次第に明らかになって行く。
空中階段
 月刊雑誌「小説世紀」に載せた新人白沢達人の作品が、今をときめく北条純の若い頃の作品の盗作だ!という投書が舞い込んだ。編集長が何とか話をつけようと、白沢宅に赴くと白沢は青酸カリいりウイスキーを飲んで死んだという。北条純の作品もまた盗作で、彼は自分の作品が盗作だったと知られるのを防ぐために、白沢を呼びつけて作品を褒めそやし、毒入りウイスキーを持たせた・・・・。
夜行列車
 夜行列車の中で酔った男は、前の妻を自殺に追いやった経緯を話した。聞いた青年はそれが自分の姉ではないかと、男を殺そうと考えた。しかしよった男は、青年の気をひこうと本のストーリーをそのまま話したに過ぎなかった。
ねじれた部屋
 長野県上田市郊外の「石屋敷」から、信州財界の三羽鴉とまで言われた桐戸剛三の遺体を乗せた霊柩車が、見送る人もなく火葬場に向かっていった。
 56才の桐戸剛三から、没落した板倉家の長女俊江に後添えの話があったとき、父親は「娘は売り物じゃない」と言下に断った。ところが妹の志津が「私が行く。」と引き受けてしまった。志津は5年も経てば剛三は他界する、それまで耐えれば良いと考えた。しかし甘かった。元気なのである。志津は、診断の結果健康とわかると殺害を考えた。
 最初はボートに誘い、転覆させようとしたが失敗。次は社員旅行のおり、毒キノコを食べさせようとしたが、夫は天狗茸と知って食わない。
 夫に「おまえのいのちをもらうぞ。」との脅迫状が二度にわたって届き、さらに亜砒酸入りの栗が届いた。夫は苦い!と言って食わない。しばらく考えて志津は、亜砒酸は無味無臭のはず、苦い!と言ったのは、夫があらかじめ毒入り栗が送られる事を知っていたからではないか。私の計画を察知し、新しい手を打って来たのではないか?
 夫の書斎を調べていて、見つかってしまった。たった一つしか開ける鍵の無い土蔵の中での対決。「犬のようにしておまえをこの土蔵の中でかってやる!」夫が襲ってくる・・・しかし気がついたとき、志津の前に夫の撲殺死体があった。鍵は夫にかみつかれ、使えなくなっていた・・・・。逃亡は不可能だ!横溝正史を彷彿とさせる作品。暗い土蔵の中の対決が恐ろしい。
「罪ふかき死」の構図
 美術評論家相原を、亡くなった父泉弘人の死因について知りたいとその娘が尋ねる。泉は相原の幼友達で、死ぬ一ヶ月前に妻が自殺している。泉は八つのはめ殺しの窓のついた部屋で、たった一つのドアには内側から閂をかけ、あるアルカロイドの入ったウイスキーを飲んで死んでいたから、当局は当然自殺と考えた。しかし娘は、煙草の吸い殻、一つだけ娘の指紋のついていないグラスの存在などから殺人と断定、少し前に窓を修理した相原が密室から抜けられるように細工をしておいた、と糾弾する。動機は泉の妻をめぐる泉と相原の争いなのだが、横溝正史の「鬼火」(1935)と全く同じ構図である。
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