講談社文庫
高柳バレエ団の楽屋に暴漢が飛び込み、それを斎藤葉瑠子が撲殺してしまう、という事件が起こり、若き敏腕刑事加賀恭一郎を中心に捜査が開始される。葉瑠子は当然正当防衛を主張するが本当だろうか。
三日後に男が風間利之と判明する。高柳バレエ団関係者は「眠りの森の美女」公演にむけて準備中、団員は中での競争が熾烈で、皆練習に余念がない。主役のオーロラ姫を演じるのはプリマで英才の誉れ高い高柳亜紀子、王子は紺野健彦、加賀の興味を持つ浅岡未緒は妖精の一人にを演じる。彼らは風間を知らぬと言うが、バレエ団は高柳など優秀なダンサーをニューヨークに留学させており、向こうで接点をもったとも考えられた。
そして練習中に指導していた梶田康成が倒れた。背中から煙草を煮詰めて作ったらしいニコチンを注射されていた。団員はまた梶田の好みでダイエットにしのぎをけずっていることも分かった。事件を独自に調査していた団員の柳生講助も襲われた。犯人はいよいよ団員の一人と思われたが回復した柳生は加賀に「役をねらって誰かを殺そうとしたことは考えられない。」と主張する。
そうしたなか森井靖子が自宅で睡眠薬を飲んで自殺した。4年前ニューヨークで起きた日本人男性宿泊客刺殺事件の全貌が明らかになった。刺されたのは青木一弘という画学生で殺された風間と親しかった。刺したのは梶田の証言で恋人のヤスコ・モリイであったという。森井靖子の後ろ姿らしき物を描いた青木の絵も見つかった。すると森井が犯人で自殺したのか、そうだとするならなぜ梶田を殺す必要があったのか?
加賀はニューヨークにいた頃まだそれほどダイエットをしていなかった事から、絵の人物は森井では無いのではないか、森井は梶田によって誰かの身代わりとして犯人に仕立てられあげようとしたのではないか、と考え始める。
東野圭吾の作品はトリックも面白いが、他の作家と違って何となくロマンチックで少女小説的なところがある。この作品も以上の事件にすぐ失神してしまう加賀と浅岡の淡い恋が絡んでくる。バレエのダンサーの奮戦ぶりがやさしく丁寧に描かれ、その中で殺人劇がおこる、ロマンチックミステリーの雰囲気。
捜査の進め方、つめも一般の刑事物とは異なっている。たとえば最後に犯人に真相告白を迫る下りなども警察に来てもらって証拠を並べ立て事情聴取をするという形を取らずに、公演初日に楽屋裏を訪ねて探偵よろしく聞き出して行く、という手法を取っている。
なおニコチン毒を使った殺人は比較的珍しい。私の知っている範囲では有名なクイーンの「Xの悲劇」、クリステイの「三幕の殺人」、井沢元彦の「本廟寺焼亡」などに見られる。
(1989)
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