鈍い球音       天藤 真


角川文庫


プロ野球東京ヒーローズの桂監督は、万年どん尻だったチームを、今年大阪ダイヤから投じて早々に一躍リーグ優勝に導いた男。その彼が東京タワーで立花コーチと一人娘の比奈子にベレー帽とトレードマークの髭だけを残して消えてしまう。時あたかもヒーローズとダイヤの日本シリーズがきって落とされようというとき。そして2日後に現れるが口も利けぬ状態。
ヒーローズは竹山が代理監督として立つが、おかしな選手起用もあって、3戦までストレートまけ。しかも戻ってきた桂監督が再び病院から誘拐され、さらに竹山監督は洋服だけ残して消えてしまう。
ここにいたって選手の投票で立花が監督に起用される。すると負けていた事が嘘のように勝ちはじめ、ついに3対3の対。ところが今度は立花監督と事実上の結婚をし、良い関係になっていた比奈子が茶色の毛の鬘とローヒールの女靴だけを残して消えてしまう。そしてスタンドに何やら信号を送る怪しい老人。しかし立花監督はがんばって・・・。
実は3つの消失事件は、似ているけれども、全部方式が違う。桂監督の場合は立花に譲ろうと自分で消えたもの。竹山はダイヤのスパイだった事がばれて、ヒーローズ側に拉致されたもの。比奈子の場合は野球賭博で大金をダイヤの勝ちに賭けたヒーローズのオーナー津田が立花を脅す目的で誘拐させたもの・・・。

天藤真の作品を読むのは3作目だが、何ともいえぬほのぼのとしたユーモアがあるのが好きだ。この作品の場合、時々正体不明の会話が入るところもとぼけていて面白い。比奈子のおてんばぶりも傑作でよく描けている。作者のいたずらっ子ぶりが作品の影から零れで手来るような感じがする。一度は真似てみたい書きぶり。こういう作品はトリックの現実性などと固い事を言わず、あるがままを楽しめばようのだと思う