日本国債       幸田 真音


講談社ハードカバー

前年夏、日邦証券債権営業部の間宮晃が、顧客である企業側の窓口の人間に対し、取引約定の見返りとして、一部接待や会議費の名目で、不正な多額のキックバックを支払っているとの内部告発があった。警視庁捜査2課佐島皓介は執拗に追い続けたが、事件の鍵を握ると見られるファーストフレデリック証券債権商品部の野田善則が、交通事故で重症をおってしまった。
朝倉多希は13年前に、小さな法律事務所で3年半勤めた後ファーストフレデリック証券に入った。トレーダーのアシスタント的仕事をしていたが、野田の推薦でトレーダーとなったが、野田の事故はそのわずか1ヶ月後だった。多希はベテランの古賀公久の元で働くことになった。
10年利付き国債(3月債、第219回)の価格競争入札が行われた。ところがここでとんでもないことが起こった。応募が足りない、いわゆる末達が起こってしまったのだ。この影響を受けて為替は急落し、株式は連日のストップ安相場。国債発行を行っている大蔵省も銀行側も大慌て、混乱を極めた。
さらに多希を驚かせたのは、作成した応札内容が金額を極端に少なく、結果からみて損を出さないように書き換えられていた事だ。しかも書き換えたのがなんと古賀であることが判明した。しかし多希の名で出された応札内容は検察官の知るところとなり、多希は「自分で考えて出した。」と答えてしまった。事の真相を知ろうとした多希は野田同様、車を襲われ、間一髪の命拾いをした。
「この国は余りにも安易に国債を発行し、それに頼りすぎている。」「もう大蔵省の良いなりになることは御免だ。」事件の蔭にはそう言った状況を打破しようとする有名トレーダー達の怒りがあった。密かに企画された国債の集団ボイコット…・・しかしさらにその情報を利用して自社の損失を埋めてしまおうとする邪悪なトレーダーもまた含まれていたのだ!
この書に賛辞をおしまない高杉良のいうように「国民にとって重大な関心事でありながら、得体の知れない国債(国の借金)をテーマに、卓越した構想力と取材力を駆使して、スリルとサスペンスに富んだ経済小説に仕立て上げた力量は見事だ。」また個人の学習の上にも役立つ。
しかし小説そのものよりも考えさせるのは本当にこのようなことが起こりうるか、と言うことだ。高田創等の「国債暴落」によると、シンジケートが国債を引き受けるという現在のシステムでは起こりそうにない。また良い金利上昇、つまり国債より利率の良い投資機会が多く出現し、結果として国債が暴落したり、金利が上昇したりするのなら問題ない。デフォルトの危険性等によって国債が暴落する場合が問題だが、借り換え続ける訳だからそのような状態はかなり先のことと思われる。しかしそうなってからでは取り返しがつかぬ訳で、長期的視点にたった政策対応が求められる。本書はそのための警告書と見なすことが出来る。

・ この国の国債市場は化け物だ。これだけ乱発される国債の発行量がありながら、なぜ価格は下がらない?金利はどうして正常に反応して上がらないのか?この国独特の未整備の税制や決済制度が、これだけ海外からの買いを制限し、発行量のほぼ全額を日本人だけで消化しているという現状を適切に認識させ、その理不尽なまでのシステムと、それを放置している怠惰な金融当局に、早急に改革の必要性をはっきりと自覚させなければならない。(下266p)
・ そうね、今月発行される十年ものの国債は、あなたが二十五歳の時に償還されるわ。そんな風に、今のこの国の借金は、あなたの将来までかかわってくる。(下287p)
020107