講談社文庫
推理小説ではしばしば探偵役のキャラクターに苦労するけれどここでは幼稚園の保母である私(妹尾睦月、略しておむつ)が密かに思いをよせる腹話術師朝永嘉夫。彼があやつる人形が鞠小路鞠夫で、この人形、しばしば術師の意志に関係ないことを勝手にしゃべり出す。さわやかな書きぶりで青春ミステリーの名に恥じない仕上がりである。
人形はこたつで推理する
幼稚園で飼っている兎の餌箱がひっくり返され、次には兎が惨殺され、死体が掘り起こされ、残りの兎が別の兎にすり替えられる。発想は島田荘司の「切り裂きジャック百年の孤独」と同じで、富豪の老婦人がエメラルドの指輪をなくし、それが兎小屋に落ちたのではないかと考え、捜そうとしたもの。
人形はテントで推理する
公演中の劇団のテントのなかで「パンダ五反田」なるコメデイアンが撲殺される。テントの中にいた誰かが犯人と思わせるが、本当はテントに寄りかかって形の出たところをポカリとやったものらしく、それなら犯行時に外にいた者が犯人?もう一つひねって実はゴルフボールによる事故でした。
人形は劇場で推理する
広告代理店の社長をしていた六十八歳の男が刺し殺されたが、男は日記に「私は追いかけられて押し倒され、ナイフのようなものを下腹部に突き立てられた。そいつの名はジークフリートだ。」と何度も書いていた。オペラの「ジークフリート」とどんな関係があるのだろう。さまざまなこじつけの説が飛び出すが・・・・。実は突き立てられたというのは突き立てたいという欲望の現れで、このじいさんは通っていた色っぽい精神科の女医に恋をした。ジークフリートは精神学者ジークムント・フロイトから来た。
人形をなくした腹話術師
朝永氏がテレビ出演した直後、何者かに鞠小路鞠夫の人形がうばわれ、引きちぎられて駐車場に捨てられていた。ふさぎこむ朝永君。私は何とかしてあげたい。実は密売組織が麻薬を人形の腹の中に入れて運んだが、受け手はどの人形に入れたか分からなかった。間違えて鞠小路鞠夫人形の腹を割いたが・・・・。アイデアは冒頭の作品と似ている。
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