呪いの塔 横溝 正史


角川文庫

昭和7年、横溝はちょうど三十歳、博文館を退社して作家専業を決意した。この作品は、その年新潮社から「新作探偵小説全集」の大10巻として刊行された。探偵の一人は由比耕作、なんとなく後年現れる由利麟太郎、金田一耕作の原形を見るような名前だ。

第一部 霧の高原
大江黒潮(38歳)は有名な小説家だが、いつもその人格に似合わぬ血みどろで、陰惨で、刺激的な作品を書く。その招待で同じ探偵作家の由比耕作(30)は彼の軽井沢の別荘に赴いた。別荘には他に次のようなメンバーが滞在。
大江の妻折江=聡明、美貌、勝ち気な賢夫人だが、最近黒潮との同棲生活に倦怠を感じつつあり。篠崎映画監督とねんごろなりとの噂
篠崎宏(34歳)
伊達京子(22,23歳)=黒潮に好意をもっている様子だが黒潮は冷たい
中西信之助(22歳)=学生、伊達京子に好意?
岡田稔(32歳)=日東キネマの人気俳優、山添道子と相愛?
山添道子(27,28歳)=何か秘密を持っているようだ。偽名か。
白井三郎。
別荘の近くにバベルの塔と称される奇怪な塔があった。七つの口があり、中は立体迷路になっている。粋狂な彼らはこの塔を利用して仮想犯罪劇を演じることになった。仮想被害者は大江黒潮、仮想探偵は由比耕作。やがて劇も終わろうとするとき、突然あたりに響くすさまじい悲鳴。驚いた人々が階段を再び登り、展望台にたどり着くとそこにはナイフを突き立てられた大江の死体があった。そして山添が忽然と姿を消した。
指が4つの男をみただの、浴衣がけで演じたのに途中スーツ姿の男にであったなど奇怪な話が出るが、山添の行方すらつかめず、捜査は杳として進まない。そこで当局は犯罪劇の復讐をすることにした。
由比が階段をあわてふためいておりてくる折江と遭遇した直後、ぎゃあっという世にも不気味な声。あわてて駆けつけると階段に篠崎の刺殺死体!
そしてついに塔に怪物がいるらしいと判明したとき、伊達の叫び声。怪物が塔を管理する権九郎じいやの首を絞めている。しかし怪物は皆に追いつめられ地上に落下していった。怪物はガラガラ蛇の弥吉といい、権九郎の甥で二人の看守を殴り殺して脱走していたお尋ね者、権九郎が密かにかくまっていたのだ。
警察は、大江も篠崎も折江も京子もすべて怪物の犠牲と発表し、事件は一件落着。しかし読者諸君はよく知っておられるはずだ。探偵小説の性質として、こんな思いがけない人間が犯人であってはならないことを!

第二部 魔の都
白井三郎はあの事件に納得が行かなかった。そこに由比の勤める編集室にあの失踪した山添道子が、大江の遺稿小説原稿を盗みに入って失敗した、との話。遺稿小説は山添をモデルにしたスキャンダラスなものとのこと。やがて山添が実は峰岸男爵の息子の妻麻耶子であることが判明する。山添によれば夫婦仲が悪く、あの時は内緒で軽井沢に来ていたのだが、何と夫と遭遇してしまった、その為逃げ帰ったというのだ。妻は夫が犯人と思い、夫は死体の側に妻に与えた指輪があったから妻が犯人と考えているらしかった。
そこに岡田稔が事故死。山添が指輪は岡田に進呈した、と告白し、岡田犯人説が有力になった。大江折江が亡夫の日記を発見したと連絡してきた。調べると最近作「恐ろしき復讐」は震災直前の田村時雄殺害事件そっくりだ、とある人物が指摘しており、大江は恐れていたことが判明する。田村殺害事件を調べ、白井は実は田村の妹が伊達京子であることが判明した。彼女は兄の復讐を誓い犯人を捜していたらしい。しかし彼女は大江を犯人とは考えていなかったようだ。この辺、作者が読者をミスリードさせて行く書き方はさすが!
しかし最後にあの指輪を包んでいたハンカチについていたゴム状のものが事件解決の決め手となる。なんと撮影の際に金歯を隠すために使われるゴムだったのである!篠崎が撮影したフィルムが再び映し出される!
事件は大江黒潮は小説など書いた事はなく、覆面作家の手になるものだった…・・そこから出発していたのだ!

複雑な塔を舞台にした殺人劇というと黒岩涙香の「幽霊塔」が思い浮かぶ。仮想劇を行っている最中の殺人劇というと、小栗虫太郎「オフェリア殺し」 、覆面作家の犯罪といえばクイーンの「ニッポン樫鳥の謎」などが思い浮かんだ。要するに推理小説好みの主題をうまく混ぜ合わせた作品と言えようか。なかなか面白い作品だった。
010111