脳男          首藤 瓜於


講談社

茶屋警部は身長百九十センチ、体重百二十キロの巨漢、連続爆弾魔緑川紀尚のアジトに乗り込むが取り逃がす。その上爆発の連続、現場に居合わせた鈴木一郎なる妙な男に助けられた。鈴木は、爆弾のありかを次げたために、連続爆弾事件の犯人の一人として逮捕されたが、まったく自分についての記憶を持っていなかった。公判中に弁護側からの要求により精神鑑定が認められた。アメリカ帰りの鷲谷真梨子が鑑定を行うことになった。
精神鑑定過程を通じて行う鈴木のルーツ探しが圧巻。
鷲谷は、医局制度を利用して恩師に頼み込調べてもらった。鈴木は幼少年期、藍沢という医師に見てもらっていた。自閉症で、通常の情緒障害のみでなく、感情そのものがないように見えた。ただし並外れた暗記力を持ち、コンピュータ同様に認識した。両親が交通事故でなくなったため、十五歳になった時、大富豪で祖父の入陶(いりす)倫行に引き取られた。入陶大威が彼の名だった。トレーナーとして雇われた男から、「その後入陶邸が火災にあい、倫行は死亡、全身火傷をおった大威は知人に引き取られた。」事を知った。しかし、その男も死亡していた。以後大威は今の名に変えて世を渡っていたらしい。
同じ頃、茶屋警部は、愛宕市でここ三年のうちに大物の悪党が三人殺されていることを知った。どうやら三人は鈴木の記憶の良さを悪の道に利用しようとして接触していたらしい。しかし鈴木は良心にめざめ、逆に彼らを葬った?すると今度も彼は連続爆弾犯人を葬ろうとしていたのではないか?
緑川から愛宕医療センターに爆弾を仕掛けたとの電話が入り、茶屋は出動することになったが、鈴木が一緒に行かせてくれと主張する。茶屋は逃亡を恐れたが、鷲谷の勧めもあって同意した。医療センターは次々に起こる爆発にどう対処してよいか分からぬ状態だった。しかし鈴木の助言で爆弾がエアシューターを使って現場に届けられていることを発見した。そして中継所でぐるぐる巻きにされ、時限爆弾を取り付けられた患者の玲子を発見、救出する。
鈴木は「自分は緑川を知っている。」と主張し、群集の中からパソコンを叩いている男を指摘、逮捕させる。その隙に鈴木は主婦を人質に救急用ヘリコプターで脱出するが…・。

昔トムクルーズとダステイン・ホフマン主演の「レインマン」という映画を見た。自閉症で数字にものすごくこだわるホフマンの活躍で、二人がラスヴェガスで大儲けする場面があった。私はホフマンと主役の鈴木一郎を重ねあわせた。この作品も鈴木のキャラクター作りが非常に良く出来ている。自閉症については日本自閉症協会のホームページなどが参考になる。http://www.nucl.nagoya-u.ac.jp/~taco/aut-soc/rainman/index.html
エアシューターを使った爆弾の輸送、というアイデアは面白いと思った。
連続爆弾魔がまたしても殺人狂でヨハネの黙示録に従って殺人を犯していた、というのはすでに笠井潔「サマー・アポカリプス」、アーサー・ヘイリー「警察検事」などに使われており、一寸安易な感じがした。

・ 相手の言ったことに対して驚く時、君は相手の言葉が全部終わるまで待っているかい。そうじゃないはずだ。そこが人間の脳がコンピューターと違ってとても優秀なところでね。…鈴木一郎は一・五秒後に反応している。いくらなんでも長すぎる。(107p)
・ 医療の世界にいるかぎり、出身大学の医局が一生ついて回るのである。(115p)
・ 人間はいろいろな経験をし、さまざまなことを学んだつもりになっているが、実は必要と言う文脈で取捨選択をしているだけと言うことだ。(149p)
・ 感情がないと言うことはただ、笑ったり泣いたりすることが出来ないと言うことではない。笑ったり泣いたりする人間的な感情のすべてが理解できないと言うことなのだ。(171p)
・ 頭蓋骨からの復元(187p)
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