オールド・フレンズ懐かしき友へ   井上 淳


新潮文庫

一年後にアメリカ大統領選挙を控え、リチャード・ゴードン大統領とハミルトン上院議員は激しい選挙戦を繰り広げていた。かってアメリカはマクミランという優秀な大統領を輩出したが凶弾に倒れた。その後を今は引退したシンクレアが引き継いだが、ハミルトンはその娘婿にあたる。

そんなおり、ロボトミー手術の権威サイラス・プラヴォ博士はある重要な情報をもたらすべくハミルトン上院議員に接触をはかった。なぜかゴードン大統領の特別補佐官レックス・マクガヴァンはヴェトナム帰りのビル・アームストロングを差し向け、殺害しようとする。しかし何者かが現れ、失敗、アームストロングは命を失い、プラヴォ博士は姿をくらます。博士の握る秘密とは何だったのか。

シンクレア時代、ホアン・コステロの支配する中南米某国で義弟エイル・リカードが反乱を起こした。前者を米国が、後者をソヴィエトが援助した。しかし同国のヴェトナム化を恐れたシンクレアは、ソヴィエトに相当の譲歩をして、秘密裏にシンクレア・ゼルジンスキー条項を締結し平和を維持した。ところが最近右傾化強めるゴードンは、これを弱腰と決め付け、ことを起こそうとしている。ソヴィエトに難問を突きつけ、軍事介入、強いアメリカを印象づけ、大統領選を有利に戦おうとしているように見える。どうもゴードン大統領には国粋主義の謎の大実業家ヒュー・サージャントの陰がちらつく。

ハミルトンは、秘書のテレザに夢中。しかしそのテレザはゴードンの意を受けたマクヴァガンがスパイとして放った女性である。ゴードン大統領、その「きんたま」を握ろうとするアーネスト・レイカーCIA長官、娘ルイザの身を案じるシンクレア、彼が雇った元CIAエージェントケン・スパナー、アームストロングの仇を付けねらうシカゴ市警察のノーマン・ユーイング、商社を隠れみのにコカインを輸入し、ゴードン政権を支えるシェリダン社長、ゴードンの命を受けた殺し屋エリク・ダ・シルヴァ等が次期選挙戦と、消えたプラヴォ博士を廻ってそれぞれの思惑に従って行動し、殺戮が繰り返される。

それにしても現職大統領が実は替え玉で、本当の大統領はロボトミー手術を施されて痴呆状態、という展開にはあっと驚かされる。それもダ・シルヴァの自爆で証拠は隠滅されたかに見えた。しかしシンクレアは隠し玉をふところにゴードンと対決、某国への介入をやめ、ソヴィエトの挑発を中止させようとする…・・。

第2回サントリーミステリー大賞読者賞受賞の本格的ポリテイカルサイエンス。登場人物はほとんどアメリカ人、しかもケネデイ暗殺、キューバ問題などそれらしい事実を下敷きにし、もっともらしく見せている。非常に面白く一気に読んだ。
ところでこの小説の疑問と提言…・・なぜ登場人物を外国人にしたのか。もしこれが日本の話として書かれたら、どういう反応が読者から得られたか?自国の首相が替え玉だったなどという仮定が受け入れられるか?そしてこの小説を米国で出版したらどういう反響が得られるだろうか?

・ ケン・スパナーには、生きることそれ自体が、複雑怪奇なルールに縛られた遊戯なのかもしれない。彼は、運命を相手に、勝ち目のないゲームを楽しんでいるのだ。(390P)
・ 我々の選挙システムの最大の欠点だろうが、熱気が高まれば高まるほど、お祭りの色彩が濃くなってしまう。間接選挙とも直接選挙ともつかぬ、責任の所在があいまいなシステムのため、四年に一度のお祭り、という面が、必要以上に強調されてしまうのだ。(424P)

・ 応募原稿の選択について、ぼくが自分に律していることはほとんどふたつのことだけである。ひとつは読みやすさ。もう一つは、独創的な「物語」として創造できているかどうかの二点だ。(484P関口苑生の解説から。)
・ が、ここでまたひとつ注文がある。…どんな荒唐無稽なストーリーを考え出してもよい。むちゃくちゃであってもよい。けれどもそこには必ず読者を納得させるリアリテイがなければならないと思うのだ。(485P関口苑生の解説から。)
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