徳間文庫
この作者に短編を書かせたらどのように書くのだろう、そう考えながらこの本を買った。過激な性描写と暴力描写ばかりが喧伝されているようだが、いづれも筋立てのしっかりした、決して甘い終わり方をしないハードボイルドな作品群である。
包囲網
薬師岳近くで消息を絶った姉の一行を探してくれ、と頼まれ、坪村智則は妹の諸岡洋子と共に出かける。姉の一行が消えたのは、落人峠の向こうにある人もかよわぬ落人村。しかし村民たちは姉たち一行に悪さをしたのか、頼りのはずの警官までぐるになって、誰も敵意むき出し。そして対決。しかも村に続く一本の道は大雨で遮断されてしまった!
欲望の谷
福井県遠敷郡O村、そこに一本の谷があった。ガラス材料の珪石が取れたが、村は業者からの爆破要請を断りつづけた。人面に似た<蟹の眼>なる岩があり、谷の形を変えてはならぬというような意味のタブーがあったからだ。広田堅二が時価の半値で買い取り、六ヶ月以内に伐採を完了することになった。しかししり込みする伐採人を集めて山に入っても、どこからともなく女のすすり泣く声が聞こえ、霧が多い、死者が出る始末だ。仕方なく中学時代からの友人物部知巳、その助手の大迫の三人で出かけた。しかし再びあの霧。、大迫が一人おかれて殺され掛けたと感じ、物部と広田の妻の浮気、大迫と物部の妻の浮気が暴露され、三人は険悪な雰囲気になる。三人とも正気を失ってきた。
呪い熊
女性的な松坂憲一は、熊に乗られて勃起不能に陥った。狩猟仲間の斧田清治の勧めで精神科医に見てもらうと「熊を殺せば、勃起は直る。」しかし暮れに出かけて行くが遭遇せず。「妻は斧田と一緒になっておれを馬鹿にする!」松坂は斧田と妻が出来ていて、二人がぐるになって自分を殺そうとしている、と考えた。妻を狩猟に連れ出し、脅して白状させた上、銃を発射するが・・・・。
化身
日本最後の秘境、阿波の剣山近くの祖谷村。死霊の谷がある。分け入った人の多くが戻らず、あるいは戻ってきても正気を失っている。動物井写真家の北川保之と吉見順子が村の古老が止めるのも聞かず向かった。そして吉見順子が行方不明になった。翌日世を捨てたような男竜吉に頼んで探しにいってもらう。下半身裸の順子が発見された。はぐれた後白い大蛇の化身に犯されたのだと言う。
それから二ヶ月、二人は東京で開かれたあるパーテイに出席した。身なりはきちんとしているがあの竜吉がいるではないか。男のくれた名刺には「内閣調査室調査第七部・後藤哲也」とあった。どうなっているのだ!
十四人の旅行者
野本夫妻は、途中諸岡なる男を拾い、国道20号線にでて笹子トンネルに差し掛かった。ところが途中で大地震。落盤がおき、彼らを含めて旅行者14人がトンネルの中に閉じ込められてしまった。ものすごい岩石の量で復旧は望み薄、次第に人々が焦る中、酸素が次第に不足してくる。出産した赤ん坊を殺せとわめくもの、犬を殺せと叫ぶもの、どうせ自殺するつもりだったからと死ぬ者、憎しみと絶望の中でドラマが進んで行く。
(参考)この作品で最後に硝酸アンモニウムを水につけると酸素が発生する、としているがそのような事実は無いように思う。
執鬼
黒井ちず38歳がひき逃げ事故で亡くなった。彼女は黒井不動産管理会社社長、夫は副社長の中田茂弁護士だった。ところが遠野捨吉が調べると複雑な事情が明らかになった。
黒井ちずの前夫黒井鉄蔵は40億の財産を残して亡くなった。鉄蔵は元々が娘黒井夏子と孫の良次の三人だったが折れ合いが悪かった。その上無類の女好きだった。そこに自動車の保険担当に過ぎないちずが入り込んだ。最初から野望を持っていたちずは夏子を、良次を、顧問弁護士を次々に追い出した。鉄蔵に遺産をすべてちずに送る、と書かせていた。まさに執念の鬼である。しかしさらに悪かったのは・・・・
鬼が哭く谷
二七号強姦殺人魔。捜査一課保科広樹の妻は、陵辱された上殺された。犯行後いつも当局は厳重な警戒網を引くのだが犯人は煙のように消えてしまう。復讐に燃える保科にあるとき「犯行当時見慣れぬオデンヤが店を出していた。」の情報が入った。そしてそのあたりから取った土砂にロウセキが含まれていた。保科はロウセキを使いそうな場所を求めて旅に出る。戸隠高原近く・・・・保科は偶然一緒になった女性と共に、何となく奇妙なわずか4戸ばかりの小さな村らしき所に迷い込んだ。歓待を受け、物陰に庭に出ると屋台らしき物があった!
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