檻              集英社文庫


北方謙三

 滝野は、やくざの世界から足を洗って、しがないスーパーを経営していた。しかしそのスーパーを巡るいざこざから野生の血が騒ぎだし、修羅場に戻って行く。昔の仲間の高安から杉野という男を海外に逃がしてくれ、と頼まれて引き受ける。
 杉野は、暴力団丸和組の幹部で、警視庁の高樹が麻薬密輸の重要参考人としてマークしている人物。そしてその情婦が大和田会長の一人娘である。滝野は二人を四国八幡浜から漁船に乗せて台湾に逃亡させる。高樹は、杉野がいなくなった理由を求めて丸和会を捜査し始める。捜査を察知した丸和会では証拠を消そうと高安と台湾に逃げた二人を殺してしまう。一方で大和田会長は県議会議員選挙出馬の準備に余念がない。
 高安の惨殺死体を見せられて身の危険を感じた滝野は、密かに大和田殺害を狙う。一方当局はとにかく大和田に代議士になって欲しくない。処置を命じられた高樹は、じっと成り行きを見つめる。そして思惑通り、滝野の大和田殺害。妻を離縁し、愛人と海外脱出をはかる滝野を高樹が必死に追う。
 血の噴出を期待した暴力小説。野獣のような行動体系の中に男の寂しさと人生の虚しさみたいなものが漂っている。
 作者は檻を通して何を言おうとしているか、と考える。主人公が現実逃避主義者ですべてが檻と考えたのか、彼を使いようのないアウトローと考えたのか、世の中のしがらみを檻と考えるのか、情道的には分かるが、具体的に何かとなるとぴんと来なかった。最終部には以下のように書いてあるのだが・・・・。
「この男のいるところなど、どこにもなかった。倉庫と兼用になったあのスーパーの事務所だけが、檻ではなかったのだ。海外へ逃げても、筋者の世界に戻っても、この男はそこを抜け出したいと思っただろう。何もかもが、この男にとっては檻だった。自分がもしこの男を逮捕(アゲ)ていたとしても、結局は檻の中で暮らすことになったはずだ。(386p)」
・「浮き世では、敗者弱者を罪人と呼ぶことになっている。」(218p)
990824