パノラマ島奇談     江戸川 乱歩

東京創元社日本探偵小説全集2

 I湾に浮かぶ直径二里たらずの人も通わぬ沖の島という小島に、かって万里の長城のような異様な城壁に囲まれ、奇怪千万、不思議な建物ができあがるまでになっておりましたが、いまは荒廃を極めております。そこにたちますと、人は壮大なある種の計画、あるいは芸術を感じ、一種の戦慄に襲われます。そこには実はほとんど信ずべからざる物語があるのです、という調子でこの物語は始まる。
 貧乏浪人人見広介は東京の下宿で、世間並みの仕事に飽き、、彼自身の理想郷、無可有卿の設計に没頭していました。そして「もしおれが使い切れぬ程の金を手に入れることが出来たら。」と考えずにはいられませんでした。そんな彼の元に、学生時代の友人で彼とそっくりだった菰田源三郎が心臓発作でなくなったとの情報が入ったのです。
 そこで人見は菰田になりすまし、その無限の財を使ってやろうと一大決心をしました。まず船から飛び込んだと見せて自分をこの世から消します。次に菰田の墓を暴き、死体を隣の墓にいれ、菰田の着ていた服を着て菰田の家に向かったのです。家人はびっくり「死者が生き返った。」と大変なもてなし。人見は記憶喪失を装う事によって次第に一家の様子を探り、とけ込んで行きます。しかし人見は菰田の妻千代子にだけはいつか見破られないかと心配でなりません。
 やがて家人が信頼した頃、彼は菰田として帰り咲き、早速あの計画を実行し始めます。沖の島を理想卿たるパノラマ島を建設しようと言うのです。ところが完成間近になった頃、千代子が気がついた様子です。そこで案内すると称し、島に連れ出し、千代子が素晴らしい景観に心撃たれながらも、最後に「あなたは菰田ではないのではないか。」と言い出したのを受けて、ついに彼女を絞殺してしまいます。
 数ヶ月後、島に北見小五郎なる探偵が訪ねて来て人見に尋問。「あなたは菰田ではないのではないか。」「いや、菰田だ。」「あなたは「RAの話」を知っているか。」「いや、全く知らない。」「「RAの話」を書いたのは人見広介と言う菰田とそっくりの男だ。この島は「RAの話」通りに作られている。あなたは人見ではないか。」と問いつめられ、発覚してしまいます。さらに「このコンクリートに埋まって毛髪は何だ。」「知らん。」それなら、と叩き割ると千代子の死体。最後に人見は爆死してはてます。
 読み終わって、作者は4割くらいは推理小説そのものよりもパノラマ島なる島の素晴らしさを書こう、としたのではないかと思った。千代子を案内して島を見せる部分は、ジュール・ベルヌの作品でもみるように具体的で詳細を究めている。倒叙法を使っていることも特色、死体との入れ替わりが謎ではなく、おどろおどろしい実体験として描かれている。最後、爆死して肉塊が降って来るところは海野十三の「人間灰」を思い出した。

・理想郷=アルンハイムの地所(エドガー・ポー)(171P)
・埋葬=早すぎた埋葬(エドガー・ポー)(179P)
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