大和書房ハードカバー
アリスの国の殺人は「不思議な国のアリス」の原作をかなり生かしている。しかしこの作品は「大人になりたがらず、いつまでも子供の特権を享受しようとするモラトリアム世代、すなわちピーター・パンのような人間」の殺人がテーマと言うことで、趣が異なる。普通に書けばそれほどとは思えない筋書きを、軽妙なギャグ、注釈、2段書き、太字書きなど紙面を存分に使った書き方、過去と現在を交錯させながら謎に迫って行く書き方、民話を使ったイントロとエピローグなどにより、非常に面白く見せている。
サウナ室でバーの女君江が、ペーパーナイフで刺し殺されていた。往年の映画スター穂積軍三は、20年前の自分の主演作の回顧上映に立ち会ったが、突然スクリーンから飛び出た自分自身にペーパーナイフで襲いかかられる。この小説は、そんなミステリアスなシーンから始まる。
40年前、羽黒乙也と穂積軍三は、共に絹子なる女性に思いを寄せていたが、絹子は二人の前から消えてしまった。、実は乙也と絹子が腹違いの兄妹だったため、父親の蒼樹が無理に隠したのだった。乙也は特攻隊に行くことをさけるために、同じく絹子に思いを寄せる軍曹の不破と図り、ペーパーナイフで傷をつけてもらった。ところが、そのために手が使えなくなり、従姉妹の日出子と結婚するはめになった。漫画家への道もあきらめ、作家になった。
そして40年後の現代、絹子は、巴温泉鞠屋女将谷脇咲子として収まっていた。再会した日出子は、簡単に女将を絹子と見破り、嫉妬から男装して咲子を襲った。ところが誤認殺人で、殺されたのは君江だった。また軍三と絹子の落し種民也が登場、スクリーンから飛び出して父穂積軍三を驚かせたのだった。
最後に日出子と咲子が本当に対決、惨劇が起こった。
いわゆる推理小説の基本パターンが随所に取り入れられているのも特色。誤認殺人、同一人物に見える子供と本人、古い列車時刻表を使ったアリバイ崩し、実は2本以上あったペーパーナイフの話など・・・。血縁関係は複雑すぎてパズル的だが、推理小説としてはやむをえないのかもしれない。
・「なによりへんてこなのは、同じ人間が同時に、二カ所に出現したことね・・・それも2度だわ。・・・・」
「離魂病というテはあるけれど」
・・・・
「・・・魂がその人から遊離して、もう一つの体になってで歩く病気よ。ドッペルゲンゲル現象ね。」
・・・・雨月物語の赤穴惣右衛門・・・・新井白石は「鬼神論」で「人の知覚は魂に属し、
形態は・・・」・・・・・貝原益軒によれば・・・・(242p)
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