プワゾンの匂う女       小池 真理子


徳間文庫

プロローグで婚約者を車に助手席に乗せ、運転していた男がいきなり心臓発作に襲われ苦しみだす。女が代わりに運転し、病院に行こうとするのだがカーニバルのパレード中でなかなか前に進めない。ことにマリリン・モンローを気取った女と男二人のバイク三人組に故意に行く手を阻まれる。ようようにして病院につくが、男は息を引き取った。医者は「せめてあと五分、早ければ…・。」と言う。
グレは銀座のクラブ「アビシニアン」の新人ホステスだが、フランス製の香水プワゾンを愛用している以外、素性は分からない。食品会社の勤める小泉哲夫は、社用で通ううち、グレに惹かれて行き、ある夜山中湖にドライブに出かけた。しかし翌朝小泉の溺死対が発見され、遺体から多量の睡眠薬が発見され、グレが消えた。
ここまで読んだとき私はウールリッチの「黒衣の花嫁」あるいは山本周五郎の「五弁の椿」の焼き直しかと考えた。話は予想通り進み、化粧品会社に勤める早乙女尚美の恋人井口英司が殺され、小泉がバイク三人組の一人、尚美はモンロー役だったと明かされるに及ぶ。しかし作者はここから先、現代作家らしく「ジキル博士とハイド氏」を作品に導入し、新味を出すことに成功している。
石井由梨は津野田雄と同棲していたが、由梨は玉木と言う医師、雄は桂木庸子なる恋人を見つけ、別れる。しかし彼らが良い関係であることに代わりはない。やがて由梨は雄があのカーニバルの時のメンバーの一人だったことを知り、雄を心配し、桂木庸子が何者か調べ始める。庸子は慎み深く見える女性だが、彼女と一緒のマンションに住むという妹の蘭子は正反対の女だった。酒を愛し、攻撃的で明るいが、男と見れば誰彼かまわず誘惑する…・そして由梨にも積極的に近づいてくる。
雄も由梨も容易に姉妹のマンションに潜入できなかったが、ついに由梨が蘭子と酒を飲んだ後潜入に成功した。蘭子の部屋の奥に庸子の部屋があった。見知らぬ男の写真が多く貼ってあり、精神科からもらった薬を発見した。不思議なことに洗面室には一人分の洗面用具しかなかった…・。

女性らしい感性の際だった作品である。由梨の昔の恋人を思う気持ち、庸子と蘭子の性格の書き分け、音楽などを利用したちょっとした背景の説明、そんなものが感じられる。
そうしたものが「黒衣の花嫁」等に見られるワンパターン的書き方を脱却し、人間味と奥行きのある作品に変えていると思った。
010716