東京創元社
百日紅の下にて
昭和21年9月、佐伯一郎が市ヶ谷八幡近所の坂を登って、あれはてた自宅につくと、復員者風の男が話しかけてきた。「ぼくは川地謙三の戦友でことずけを持ってきました。彼はニューギニヤで死にました。」由美は佐伯が子供のころから育て妻にした女だった。赤紙を受け取って前線に赴くことになったとき、佐伯は由美讃美者の五味謹之助、志賀久平、鬼頭準一それに川地謙三に後を託した。しかし負傷し義足をつけて帰ると1週間後に由美は自殺してしまった。
それから1年たった1周忌に起った殺人事件。佐伯はバーのスタンドの上に親盆を置き、五つのグラスを並べ、ジンを注いだ。爺やによばれて佐伯は外に出た。その間志賀がついであったグラスの一つを飲み干したばかりか、4つのグラスの位置を置き換えてしまった。
佐伯が戻ってきて空になったグラスに再びジンをそそぎ、鬼頭、志賀、五味の順に渡した。そして残った二つのうち一つを五味が取って川地の前においてやった。それから空襲警報があり、皆グラスをおいて立ち上がった。しかし間違いだと分かり、皆もとの席へ戻ってジンを飲んだ。すると突然五味が苦しみだし、死んでしまった。青酸カリ中毒死。
佐伯が青酸カリを一番混入するチャンスがあったが、グラスの位置が分からなくなっているから違うはずだ。それでは志賀か、鬼頭か。しかし男は志賀が川地が自分のグラスと五味のグラスを入れ替えるのを目撃した、と証言したこと、川地がそれをつかれると短い髪の毛が浮いていたので厭だったから交換したことを白状したことを明らかにした。
川地の伝言は、「佐伯が由美を私が犯したと考えて殺そうとしたに違いない、しかし実は由美は私の妹でそんなことはない。」というもの。男は川地の伝言を伝えた後、佐伯が川地と刺し違える目的で二つのグラスに毒をいれ、目印として髪の毛を入れておいた、しかし五味が飲んだので、あわてて佐伯は自分のものを捨てた、と喝破する。
グラスのトリックはいろいろあるが、これも興味ある例なので詳述した。刺し違えるというのは非常に日本的な発想のように思えた。
(百日紅)http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/HTMLs/Sarusuberi.html
車井戸はなぜ軋る
K村には本位田、小野、秋月、三家があったが、本位田家のみ大三郎などの活躍で栄えた。大三郎の息子大助は鷹揚に育ち、肉付きも豊かに魅力に富んだ青年になった。同じころ秋月家に伍一という子が産まれたが、大三郎と告示していた。しかも瞼の特色から大三郎が秋月の妻お柳と関係して作ったこであることは明らかだった。彼は子供のときから姉のおりんと共に鋤鍬とって働かねばならなかったので性質はねじけた。彼はおりんと共に本位田家に復讐する、と誓っていたようだ。戦争がはじまり大三郎と伍一は応召した。
その後の事実はあの事件があってから薄幸の死を遂げた大三郎の妹鶴代から、胸を患って近くで療養している大三郎の弟慎吉にあてた手紙で語られて行く。
戦争が終わり大三郎が帰ってきたが、両眼をやられており暗い表情だ。伍一は亡くなったという。一家は祖母のお槙、兄嫁の梨枝、それに大三郎と鶴代。鶴代は兄が死に、戻ってきたのは伍一ではないかと疑う。しかし指紋の分かる絵馬をお堂に取りにいったお杉は墜落死してしまった。そしてそんなある時、梨枝がめった突きにされて殺され、大三郎?が古井戸に投げ込まれて殺された!
伍一が大三郎にありもしない梨枝の不貞を吹き込んだことに因を発し、結果として秋月家の復讐が成功する形になる。車椅子の軋る音から、鶴代が正しい犯行時刻を推定し、事件を解くことになるが暗い話である。
001108