新潮文庫
推理小説を書く時、探偵や刑事の立場から書く、倒叙法のように犯人の立場に立って書くなどが代表的だが、被害者の立場から書くことも出来る。本書はそのような観点に立ち、読者を北は北海道の十勝岳、シラルトロ沼、南は九州の平尾台、高千穂峡まで、犯罪現場と考えてもおかしくない場所に導き、断崖絶壁に立った時に感じるあの血のひいてゆくようなぞくぞくした気持ちにさせることに成功している。恬淡とした書き方ながら、さながらドキドキハラハラ秘境巡りツアーの趣。またどの作品も物語を終えておらず、結末を読者の想像に任せているところも面白い。
樹海の巻(青木ヶ原)…その男は私を別荘において毎日樹海に出かけて行く。どこに、なんの目的で?
潮汐の巻(鬼が城)…潮が満ちてきた。私の気に入らぬ男はバンドを差し出してくれた。しかし途中で彼が手を放したとしたら
湿原の巻(シラルトロ沼)…そこからなら最高の列車の写真が撮れる。しかしそこは底無し沼!
カルスト台地の巻(平尾台)…編集員と名乗る男は応募作品を小説にしたい、ついては現場を見ておこうと私を誘う。殺意が隠されているとも知らず私はついて行く。
段々畑の巻(御三戸)…桟道の向こうの家に逃げた私たち。ある日私は桟道に取り付けられた爆破装置に気がつく。
溶結凝灰岩の巻(高千穂峡)…高千穂京峡谷の上から紙ヒコーキを投げたら危険、それで石ころを投げてみた。
火砕流の巻(北軽井沢)…どうやらG氏も私同様火事を見るのが好き。二つの別荘の間にある二つの別荘が次々に何者かの放火によって灰塵に帰した。
古生層の巻(奥大井川)…三葉虫化石を見つけた私をあいつは殺そうと言うのか。もう端まで着ているはずなのにあいつは言う。「バックオーライ、バックオーライ!」
トレッスル橋の巻(余部)…あの橋の上から突き落とされたら。
豪雪地帯の巻(松之山温泉)…婿投げとは嫁をもらった婿さんを観音堂から放り投げる習慣。雪があるから大丈夫。歓迎会のおり皆私を抱えあげた。下は除雪されたコンクリートの道!
隆起海岸の巻(鵜ノ巣断崖)…K子を突き落とそうと私は彼女を断崖の上に導いた。しかし私の方が足が竦んで…。
石油コンビナートの巻(徳山)…男は広島でおいつけると、私を徳山のコンビナート視察に誘った。しかし崖の上に降り立った私に、バックすると見せた車が向かってきた。
硬玉産地の巻(姫川)…婚約者のM子は姫川に行き、墜落死体となった。私のアリバイは成立するか。
砂丘の巻(鹿島灘)…精薄児の妹。私は彼女を砂丘に仰向けに寝かせ砂をかけてやる。一所懸命、いつまでも。
廃駅の巻(日和佐)…廃駅にひそむ殺人鬼の恐怖
海蝕崖の巻(魔天崖)…売り出し中の俳優のPが青年に写真のモデルになれと迫っている。もっと前へ出ろ!しかしそこは崖の上。
噴火口の巻(十勝岳)…主人は十勝岳に飛び込んで死んだことにし、自分の葬式を見たいともうしますの。その後南の国ででも生活したいですわ。
海の見える家の巻(須磨)…母の病状は悪化、私は睡眠薬を砕いている。海の見える家、天国に母をいざなうために。