殺意   夏樹 静子

集英社文庫

殺意

高村神経クリニック高村はある日からしめんたいの老舗「まさごや」のおかみ白水絹江の訪問を受けた。主人がわがまま、女癖が悪いなどの苦情とともに夜眠れぬなどの相談を受け、助手の藤波に対応させた。しばらく通院が続き、彼女は、夜は夫の昭久が首を絞めてくれ、などいやなことを要求するからいやだ、と告白した。やがて彼女は病院に来なくなり、藤波が再開したときには離婚したという。

藤波が調べるとまさごやは吝嗇な上、嫁いびりでも有名だった。

ところが白水昭久が愛人持田れん子のもとで死んでしまった。首を絞めてくれと要求されたのでそうしたのだが、朝になって気がつくと死んでいたというのである。過失だが、昭久のSM遊びの証拠なども見つかり、釈放された。

しかしこの事件には裏があったようだ。「まさごや」では相続税対策などを考えて、財産をほとんど昭久名義にしていた。白水絹江には二人の子がおり、絹江が引き取っていた。昭久の財産の相続権は当然二人の子供にある!彼女が弁護士を引き連れてまさご家を訪問したのは死後半年もたってからである。

昭久の妹清子は、兄は殺されたのではないか、との視点から調査を始める。

記憶

湯浅紀江が、平穏なときを過ごしていると、突然隣家の主婦八島可那子が血だらけで飛び出してきて、「助けて」と叫び倒れた。夫の助けを得て救急車を呼ぶ一方、八島家に踏み込むと、勝手口に夫の友勝があらわれた。手に小型のアイロンを持ち、何か気のぬけた様子だった。八島は「所沢にある工場に出かけるつもりだったが必要書類を家に忘れたことに気付きもどったところ変事に遭遇した。」と主張した。

凶器はアイロンと特定されたが、決定的証拠がなく、八島は起訴は免れた。治療費、幼稚園に通う息子の友広の面倒と、八島は大変だった。しかも周囲から冷たい視線をあび、離婚も考え始めた。

可那子はこんこんと眠り続け、回復しなかった。医師によれば記憶を6ヶ月たって記憶を取り戻す確率は数パーセント以下・・・。八島には何があったかわからない。しかしひょっとしたらと幼稚園に通っている息子の友広の周囲を調べ始めた。そして幼稚園にも小さないじめ事件があることを発見した。

可那子の記憶がゆっくりではあるが戻り始めた。

この作品はこういう推理小説もありか、と驚いた。ハイライトは頭部外傷を受けた被害者可那子の意識回復過程の描写である。無駄になるかもしれない八島のあがきもよく描けているが、添え物という感じである。

020822