講談社文庫
どういう意図かエピローグとつけた冒頭に犯人の蒲生稔が惨殺死体をあとに逮捕・連行される場面が紹介される。ついで蒲生稔、追う一人暮らしの引退した刑事樋口、自分の子が猟奇的殺人犯のわけがないと信じながら、次第にそのような状況を発見して心配する稔の母親雅子の語りが時間を飛ばしながら交互に描かれる、という手法を取っている。
稔は昨年文学部の1年生江藤佐智子をホテルに誘い、情交すると見せて殺した。そうして口付し、愛撫し、性器に奥まで挿入し、射精した。ゲームセンターで拾った女の子を殺したときは、「この愛を失いたくない。」と考え、乳房を切り取って持ち帰り、愛撫した。しかし乳房が腐臭を放ち出すに連れて、庭の花壇の隅にうめなければならなかった。
乳癌で妻を亡くした元刑事樋口を看護婦だった島木敏子が時々訪れるようになった。30以上も違う年齢を越えて、敏子は樋口を慕っているように見えたが樋口は相手にしない。その敏子があの猟奇殺人事件の餌食となってしまった。乳房に加えて陰部まできり取られて…。
雅子は夫には満足していなかったが、地味で平穏な暮らしが続けばよかった。息子も娘も「わたしの」子供たちだった。しかし最近息子の様子がおかしい。忍び込んで調べたところ、くずかごの中から赤黒い液体が入ったビニール袋を見つけた。息子は何をしているんだろう。おりから猟奇殺人の報道!不安が広がる。
散々疑われ、敏子の葬式でも追い返された樋口を、敏子の妹かおるが訪問、「私はお姉さんに似ている。おとりになってでも仇をとりたい。」と樋口をさそう。後にこれに新聞記者も加わり、敏子の足取りを追跡、ついに最後に行ったバーMirror
on the Wallを探し当て、蒲生稔なる男の存在を知る。三人はそこで罠をはる。
稔は敏子のときからビデオを使い始めた。しかし乳房が腐臭を発し始めるとさびしくなり、またやってしまった。そうして過去を振り返ったとき彼は島木敏子を思い出した。彼女は最高だった。ところが町で死んだはずの彼女を見かけた。彼女を捕まえようとバーMirror
on the Wallに通い出す。
雅子の息子の部屋探索は続く。そしてついにある晩、庭の隅に埋めてあったビニール袋を発見してしまった。家をぷいと出て行った息子を追う!
稔が敏子を誘い、ホテルに連れ込む。樋口が、雅子がそのホテルに駆けつける…・。しかしそこには読者があっと驚くどんでんがえしが待っていた。
この作品は叙述トリック小説である、と最後に気がつく。そこまでは家庭内の親子の断絶、夫と妻の断絶、猟奇殺人などをテーマにした通常の作品と思う。そういう観点から見ると、事件の記述はおどろおどろしく素晴らしいけれど、どうして犯人がそんな気持ちになるのか、書かれていない、犯人の愛というものは何なんだ、性欲と書くべきだ、など多くの疑問を読者に投げかける。結局これらについては主題から外れるせいか?ほとんど書かれていない。この点、私は、作品を読みながら佐瀬稔の「金属バット殺人事件」を思い起こし残念な気がした。本作品を逆に純粋に叙述トリックを目的とした作品、と解する場合、作者が読者をだますに当たってどこまで真実を書いているかが、問題になると思う。バーテンの証言が「犯人は26,7歳から30歳くらい。」としながら、どんでん返しで実は四十三歳となったり、息子の部屋から赤黒い液体が入ったビニール袋を見つけながら、後に説明がない点は気にかかった。
・ 子供たちは「死」と言うものから隔離されている。一方マスメデイアの中には「死」が溢れている。…「死」もまた身近で遠い存在であり、ある意味では憧れの対象になるのだよ。有名なアイドルタレントが自殺したとき、子供たちが競うようにして後を追ったのは、不思議でもなんでもない。(210p)
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