創元推理文庫 日本探偵小説全集6
東京西郊外Iの丘地に建つ聖アレキセイ寺院は共産革命以後、日本における白系ロシア人の基地となっていたが、今は堂守のラザレフ、養娘のジナイーダとイリナが住んでいるだけだった。この寺院が規則時間外に鐘を鳴らすときは何かの異変を告げる、と言うことだった。
霰の降った寒い朝、本当に鳴り響くのを聞こうと、法水麟太郎が支倉、熊代と出かけると「偽の手紙で豪徳寺まで呼び出されたが、変事の警報に使う鐘の音が聞こえたので急いでかえってきたところ。」という小人のルキーンにであった。全員で寺院に入ると、礼拝堂脇の自室の前でラザレフが短剣で首をかききられ、ひざを突くような形で死んでいた。争った跡はない。やがてその日はジナイーダとルーキンが結婚する日だったこと、近くをジナイーダを好いていたワシレンコが徘徊していたこと、等が明らかになる。そして堂の20メートルほどのところから凶器の短剣が発見された。ジナイーダとルーキンは無事だったが、何も知らぬと主張する。
支倉、熊代は、事件をそれぞれ次のように解析した。
(1)犯人はルーキン、豪徳寺に行ったは嘘で、寺院内に隠れていて、朝方犯行におよび、殺害後鐘のある尖塔にのぼり、凶器を放り投げたのち、寺院につながる動力線を伝って外に逃げた。
(2)自殺 ルキーンがラザレフの何か致命的な弱みを握っていたため、ジナイーダを嫁にやると約束したが、ジナイーダが拒否、かわりのイリナも動こうとしないため絶望した。その後、犯行をワシレンコに見せかけたかったルキーンが凶器の処理をした。
しかし、法水はそれぞれの理論の欠点を指摘した後、戒律の厳しいカルメル教会派に忠実なジナイーダが、いやな結婚を強いられて、神に忠実な道を選んだ上での犯行とする。
それでは、鐘はどうして鳴ったのだろうか。なぜ、凶器は飛ばされたのか。これに対する法水の解釈は・・・・鐘は全身で傾けると、霰がついて壁に凍り付いてしまう。フイルムに膠材を使ってアルミ粉をつけた棒を用意し、一方を鐘の振綱に、他方を動力線近くまで、近づけておいた。霰とともにつららが出来、それが動力線にさわると一瞬電流が流れ、氷が溶け、鐘が鳴り出すというもの。さらに鐘に吸い付けられた凶器を他の鐘がたたきとばした。
つららで電流が流れる、というところは分かるにしても、釣り鐘を霰で壁面にくっつけた、動力線に傷をつけ、電流が流れるようにした、釣り鐘に吸い付けられた凶器が他の鐘でとばされた、という理論はいくら何でも無理があるように思えた。しかし、読ませると言う点からは面白い。つららが出来て電流が流れるというアイデアはほかでも使えそうに見えた。また白系ロシア人社会に目を付けている点も素晴らしいと思う。(1933 32)
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