世界でいちばん熱い島   小林信彦

新潮文庫

小林信彦は書店でなんとなく興味をひく作家である。
この作家の作品で面白い、と思った事が2度ある。一つは「オヨヨ島の冒険」昭和45年ころ子供向けの推理小説として出版され、大ヒットした作品である。小学校5年生のルミちゃんの「あたしって、すごく、不幸な星の下で生まれたんじゃないかと思う。」というセリフで始まるこの作品は彼女の冒険談である。もう一つは「ぼくたちの好きな戦争」太平洋戦争を素材にしたこの作品はしんみりした書き出しではじまるが、すぐにでたらめの限りを尽くした辞世の歌ギャグ大会に転調。これが起点となって和菓子屋三人息子の話、ベンドルイトン将軍の作り話など転調、また転調、実に面白かった。
1932年、東京・両国生まれ、早稲田大学文学部卒業。「ヒッチコック・マガジン」創刊から編集長を務めた後、作家として独立。2作品のほか「唐獅子株式会社」「イエスタデイ・ワンス・モア」「ドリームハウス」などがある。映画などに関するコラム、エッセイなど多いらしいがそちらはよく知らぬから省略。
さて、今回の作品は「世界でいちばん熱い島」
実家から離れて、私は横浜のデイスコで知り合った雅子と恋をし、一緒になった。しかし「息子を取られる」と思った母が口出しをし、私たちの平和は終ってしまった。わずらわしさから逃れて、私は南の島コロニア共和国にホテルの支配人として着任した。
当初はこの島は昔のままの<楽園>と思われた。私は死後との傍ら、大統領夫人の京子との情事を楽しむなど優雅な日々を送っていた。しかし副大統領ベニ・ツチヤの暗殺、秘密警察とゲリラの暗闘、うさんくさい日本人の来島など次第にきなくさい雰囲気となり、一触即発の状況の中、私は秘密警察に捉えられるなどする。
そうした中私は彫刻家スノハラ老人にモデルとして紹介した今井理沙に興味を抱く。やがて外部との接触が絶たれた環境の中で彼女との濃密で純粋な愛の時間が流れる・・・・。
この作品は推理小説と呼ぶべき作品ではない。ベニ・ツチヤ暗殺の犯人探しがないではないが、それは付け足しに過ぎない。また「僕たちの好きな戦争」に見られるようなギャグや読者をだます面白さ、時代風刺といったものも感じられない。何となく始まり終わる感じであるが、主人公の三人の女への接し方が興味を引く。
雅子の場合、母を捨ててまで守ってやることをしない、言ってみれば雅子を捨て母を選んでいる、京子の場合はなんとなく行きがかりである、理沙の場合その肉体のみを愛し精神は無視しているようにも見える。最後にハワイに左遷された主人公が、愛車ビュイックリーガルの右側シートに、スノハラ老人の作った理沙の彫像を安置しハイウエイにでる、彫像の引き締まった腹部をそっと撫でる場面に代表されている。何か傍観者的な生き方に物足りなさを感じ、物語にのめりこめないのは私だけだろうか。
考えて見れば「私」は東京の本社から生活を保障されてはいるが、いわば根無し草である。その根無し草が流されるままにその日暮らしを続けていくうちに、自分の力の限界を感じる年齢になる。そこに感じる人間の寂しさを作者は描きたかったのだろうか。

040628