社命             清水 一行


角川文庫

国際通信会社KTKは、国際電話をあつかう民間会社だが、トップは電電公社出身者、郵政省出身者が多い。現在の四方社長は、郵政省出身で強力なワンマン体制を敷き、反体制派の田尻副社長は孤立しており、次期には放り出される運命。四方の右腕となって社内を牛耳っているのが、梅内室長率いる統括秘書室で、主人公の久慈が勤務しているところ。
昭和54年頃、会社は需要の爆発的増大、円高差益などがあって驚くほどの収益をあげており、そのおかげでトップは公私を混同し、乱脈を極めていた。またKTKにはVIPだけに認められる成田税関フリーパス制度が適用されていたが、この特権をフルに利用して、ゴーストと呼ばれる高価でめずらしい品物を無税で持ち込み、政官界にばらまいていた。
ところが成田税関フリーパス制度が廃止されてしまった。
そんな折り、社長外遊に伴うお伴役に抜擢された杉本は、密輸の発覚を怖れて自殺、田尻は密かに現体制の不正の調査を始める、など暗い雰囲気が漂い始めた。そして、杉本の後任に久慈が指名され、同じ問題で迷う。社名に従い、法律違反の危険な仕事に手を出すべきか否か、失敗すれば責任をかぶせられるだけだ。
久慈は、夫婦仲が悪く、昔の恋人由美子のもとに逃避、ついに二人で行方不明を決め込んでしまう。結局かわりに秋山、北原等がついて行くが、田尻の密告により成田税関で密輸が発覚してしまう。事件は、大きく報道されると共に、トップの公私混同による乱脈経営をも暴きだすことになった。

税関で捕まり叫ぶ「ちょっと待ってよ。さっきから言っているように、ぼくらはKTKの者なんですよ。知ってるでしょKTK。」という発言に、大企業サラリーマンの陥りがちな社会常識を無視した感覚が良く表されている。

・なにしろ国会の逓信族だけで、九十五人もいるのである。・・・・こうした代議士のたかりの構造は・・・目に余るものがあった。(134P)
・室内から鍵をかけると、外からは絶対開かない構造・・・・ドア・ラッチ(149P)
・パイプが詰まったなどと言うのは官庁独特の言い方で、それは天下り先の人々の回転、詰まり流通が、つっかえてきたと言う意味であった。(183P)
・由美子の、老後の設計まできちんと立てなければ、生きていけないのかという一言だった。衝動的刹那的でもいいはずなのである。(346P)