日本探偵小説全集11
上海された男
また船に乗り込みたい為吉は、合宿所で朝起きると、観音崎署の刑事にいきなり「坂本慎太郎というのを知っているだろう。」と言われる。払暁海岸線を見回っていた刑事が、点滴となって続く血痕・靴跡・衣服の切れ・坂本新太郎の海員手帳・質札を発見した。相部屋で手に傷をつけ、サカモトの小刀がずぼんのポケットから発見された為吉が疑われるのは当然だった。しかし連行される途中一瞬の隙をついて為吉は今まさに出航しようとしているノルウエーの貨物船に乗り込んでしまった。
坂本になりすまし、万事は順調に見えたが暴風で船が引き返し、気がついたときはまだ神戸。水上警察が追ってくるとあってボイラーの上に隠れると、水管を通してかすかな音。その音はモールス信号で「上海された。」と言っている。「上海する」とは通行人を暴力でさらって酷使することだ。警察がさって外に出ると、なんとあの坂本がいるではないか。こいつは上海されたのか、そして俺は上海を志願した・・・。
舞馬
女房に死なれた植峰の当主峰吉は、三年ほど前お八重を前借りを払って長火鉢の向こうに据えた。家にはもう一人養子とも居候ともつかぬ茂助がいたが、こいつはお湯屋の番台のおとめちゃんにぞっこんだった。お八重に子供が出来た。口さがない奴らは「茂助の子供じゃないか。」と詮索する。お八重は止せばいいのに、茂助をさそってさも何かありそうにふるまい、亭主の隠れた欲望を刺激する。
お湯屋で火事。火事跡の現場から茂助とおとめちゃんの焼死体。お八重は「おまえさんが火をつけ、茂助を屋根に招き、それから下に突き落としたんじゃないかい?」峰吉は返答にしどろもどろ。そこに警察が葬式で読む茂助への感謝状を持ってくる。真実はどこにあるのやら。
991018