中央公論社
日本占領下のシンガポール、チャンドラ・ボース率いるインド国民軍の閲兵式で、東条英機暗殺未遂事件が起こった。本書はこの事件を中心に据えたもの。
昭和16年12月、台湾出身ながら日本国民のパスポートを持つ梁光前は、シンガポールで日本人貿易商桜井庄二郎の元で働いていた。一家には息子の幹夫、成人式を迎え蘭のように美しい摩耶。
ところが日本は米英に宣戦布告。英国によって桜井家は接収され、一家は収容所に収容されてしまった。梁光前はかろうじて逃げ出したが、すぐ追われる身となり、娼婦リーナに助けられる。身分を隠しながら、摩耶を見舞い、庄二郎からは頼まれて秘密のノートを軍に届けたりする。しかし英軍当局の追求は激しく、あまり乗り気でないマレーシア共産党幹部鄭傳順等の抗日義勇軍に参加して虎口をだっする。日本軍とのブキテイマ高地での戦いでは勇敢に戦い、仲間を助けたりもするが、所詮負け戦だった。やがてシンガポールは日本に占領され、シンガポールは昭南島となり、過酷な軍政が始まるが、桜井一家は元の家に戻り、表面上は梁も昔の生活を手に入れる。しかし愛しく思っていた摩耶は日本人高官と結婚し、所詮はかなわぬ夢となった。
あの秘密のノートが中国人不穏分子を当局に売るものとわかり、梁は鄭等に捉えられる。ブキテイマ高地での戦功で命は助けられたものの、東条暗殺計画に加担させられることになる。十分な下調べをし、当日は銃を隠し持ち、東条にせまるが、突然爆弾による別の殺人計画が進行していることに気づき、思わずとめてしまう。
終戦。日本も桜井一家も去り、裏切り者のレッテルを張られ、梁は鄭たちに襲われるが・・・。最後に梁がリーナの助けで、どの立場と言うことは決められないが、自分を大事にして生きて行かねばならぬと考えるところに、この物語の結論があるように感じた。
日本びいきの一中国人の、戦争によって支配者の変わる島における、生活の揺れがよく描かれている。同時に太平洋戦争における日本軍のあり方の問題点をよくえぐり出しており、それはまた現代日本の外国との接触の仕方にヒントを与えているようにも感じられた。
・フェンテスの日本のシンガポール占領批判・・・・公用語を日本語にしろ、と言う通達はさすがにすぐに撤回されたが、相変わらず日本語を学べっていう運動は続いている。イスラム教徒やキリスト教徒にまで、日本の太陽の女神に祈れ、と強制する。あの山下という将軍はシンガポールの市民に向かって、おまえたちはエンペラーの家来だ、喜べ、と演説したじゃないか。身の程知らずと言う奴だ。・・・・単に軍事上の勝利にしか過ぎないものを、文化や生活様式の優秀さの証明だと勘違いしてしまったんだ。この勘違いは。いづれ高いものにつくことになるよ。(334p)
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