角川文庫
容疑者が自分が犯人と思わせる状況を作り上げる。ところが当局が調べると、疑わしい点や他人が犯人らしい状況が浮かび上がり、容疑者は釈放される。しかし、さらに調べると犯人はやっぱり最初に疑った容疑者…・。このような展開を見せる推理小説は、クリステイなどにも見られたように記憶している。
しかし「支那扇の女」は、自分には殺人者の血が流れている、と思わせる悪意ある人物の行為が組み合わされていて、推理小説らしい作品に仕上がっている。
「女の決闘」も、単なる毒殺物に終わらず、隠された事情によって犯人が分かる構図になっている点が面白い。
支那扇の女
昭和32年8月早朝、木村巡査はある家から飛び出し、必死に自殺しようとする女性を取り押さえた。彼女の家に踏み込むと、義母と女中が血の海の中で死んでいた。彼女は「私じゃない、私じゃない。」と叫び、事実彼女が殺害したにしては不自然なところが多くあった。
彼女の名は朝井美奈子。ところが彼女は夢遊病者であるらしかった。彼女の大伯母は八木子爵夫人で克子と言ったが、克子は明治19年、夫の冬彦から、冬彦をはじめとして姑泰子、義妹鶴子を毒殺しようとしたと告訴された。しかし彼女は獄中死亡したため、最後の判決を見るに至らなかった。
克子の夫朝井照彦は事件当時外に出ていたが、アリバイが完全とは言えないところもあった。しかも照彦は、墓から発掘したという八木子爵夫人の肖像画を美奈子に見せた。これをみて美奈子は「子爵夫人が自分にそっくり、私には殺人鬼の血が流れている。」と恐れていたという。その上、朝彦は、美奈子に最近封切りされた殺人鬼の血が遺伝することをあつかった「悪い種子」という映画を見せている。
ところ金田一耕助等がよく調べると、肖像画は偽画と判明した。偽画作家辺見東作を尋ね当てると、彼は押入の中で惨殺されていた。辺見と朝井照彦は親しかった事が知られており、テーブルにあったチーズの歯形は照彦のそれと一致した。かくして照彦が逮捕されたのだが…・。
女の決闘
ロビンソン夫妻が帰国することになり、お別れパーテイが開かれた。そこに売れっ子小説家の藤本哲也が妻の多美子を連れてやってきた。ところが招待状を出したはずのない藤本の別れた妻、河崎泰子もやってきた。きまずい雰囲気が流れる。泰子と一緒にソフトクリームを食べた多美子が突然苦しみだした。ストリキニーネ毒だったが、その場に居合わせた金田一耕助の活躍で一命をとりとめた。
ロビンソン夫妻帰国後、今度はジャック安永の主宰するパーテイで泰子と一緒にいた藤本が突然苦しみだし絶命した。死因はやはりストリキニーネだった。
犯人は泰子だろうか。しかしロビンソンの手紙で金田一が真実を掴んだ。実は藤本は文才がなく、作品はみな河崎泰子が書いたものだった。藤本が泰子を振ったのではなく、泰子が藤本に愛想をつかしてしまったのだった。
020225