新潮文庫
4編が収められているが、いづれも推理小説らしい推理小説である。情景描写と人間描写が実に丁寧で細かい。加えてストーリー性が豊かで、いづれも読ませる作品になっている。
酷い天罰
鳥飼家は交通安全祈願でご利益のあるという二見ヶ浦神社から、わずかのところにある。ある朝、家の前で23歳の息子の祐平が、血まみれになって死んでいた。彼は家にいつかず、半年ほど前に事故を起こして人を死なせ、免許停止になっていたが、その夜も友人のバイクを借りて運転していたことがわかった。
頭、肩、腹、膝、脚など7-8箇所に鈍器で殴られたような後があった。やがて犯行場所が発見され、帰宅途中に災難にあったことが判明した。半年前の交通事故の復讐なのだろうか、あるいは事故に反省の色を見せぬ祐平に親も加担して天罰を加えたのか。交通事故を殺人に見せかける、というアイデアが面白い。
死なれては困る
城之内工業社長剛一郎は三ヶ月前ゴルフ場で急に倒れて以来、意識不明のまま入院していた。妻の佐和子が熱心に看病していた。その城之内社長を襲って窒息死させようとした事件は単にやくざの人違い襲撃と判明した。
しかし担当警部は2ヶ月ほどして<誤って血糖降下剤投与・・・・患者は植物人間に>という事件を知ってこの事件に疑問を抱き始めた。聞けば城之内社長は過去にも朝食後2時間ほどして倒れたことが2度ほどある。果たして佐和子は本当に貞淑な妻か。
最後の「死なれては困るわ。殺人なんて、脳なしのすることです。」が強烈である。
女子大生が消えた
裕福な両親は、娘の瓦崎千加代を東京の女子学生専用の高級賃貸マンションに住まわせ、彼女の求めに応じて多額の仕送りを続けてきた。
その両親が娘を久しぶりに訪ねてきたが不在だった。ところが彼女はその日の午後仙台近くにある秋保温泉で発見された死体となって発見された。やがて警察に彼女とともに秋保温泉に行った男が自首してきた。山部吉郎・・・妻子あるサラリーマンである。しかし彼の話によると、彼女は投宿した大泉楼から突然いなくなったもので、千加代の死についてはいっさいあずかり知らぬ、と主張した。多額の仕送りが結果として彼女に不幸をもたらしたのか?
路上の奇禍
野原でゴルフの練習をしていた安川初音のふったクラブが、ちょうど朝のジョギングで通りかかった宇野雄幸の頭部を直撃、死亡さてしまった。安川は小さなブテイックを経営していたが、20万円の罰金のほかに莫大な損害賠償を払うことになった。
それから1年以上経って河辺利之が整備していた猟銃が暴発し、たまたま通りかかった資産家の老人榎公太郎に命中、即死させてしまった。河辺が罰金のほか、損害賠償をはらうことになった。
しかし宇野とともにジョギングをしていた松尾は偶然、損害賠償にあえいでいるはずの安川がブテイックを立派なビルに移転させたことを知って疑問を抱く。なんと榎は安川の祖父で、その死によって膨大な遺産が転がり込んだ、というのだ。さらに宇野雄幸の未亡人と河辺が愛人関係にあるらしいことをつかんだ。
交換殺人という発想は昔からあるが、彼らはそれを「過失致死」の形で実行したのではないだろうか。
020822