「新説邪馬対国の謎」殺人事件 荒巻 義雄


講談社文庫

殺人事件と銘打ってはいるが、実際は「邪馬台国の謎を解く」方が主体となっている。
発端は邪馬台国とは縁も縁もない北海道千歳近くの雪の原野で、老画家野々宮太郎の扼殺死体が、発見されたことに始まる。千歳空港でキャンピングカーが発見され、死後相当経過していたことから、和歌山県新宮あたりで殺されて運ばれたらしい。
画伯は何か邪馬台国の調査をしていたらしい。持っていたレシートには「マ、臍、祖母」と書かれていた。資産家でアメリカで学ぶ斐美香という娘、弟の野々宮数馬、身の回りの世話をする大森多津子、その息子の大森盛児、画商の北村安国、最近秘書にした安原令子、元の夫人篠原洲子などが関係者。
事件の謎を解くのは新聞記者の岩都桂介、古代史に造詣の深い荒尾十郎などだ。どうも被害者は邪馬台国の存在位置を推定したらしく、調査はその場所探しからはじまる。岩都は荒尾から借りて、邪馬台国の記述のある魏志倭人伝から読み始める。調査を続けるうち岩都は斐美香と愛し合うようになる。
以下事件と邪馬台国のなぞ解きの二本立てでストーリーが進んで行く。
邪馬台国なぞ解きの鍵は「始度一海千餘里」の解釈だ。これを従来は「始めて一海を渡ること千餘里」と読んでいた。しかし度は本来測るの意、初でなく始をつかったのは女帝の支配する邪馬台国を意味する、等の考えから「一海をはかることより始むれば千餘里」と解釈すべきだ、一里は約七十五メートルと推定される、などから新解釈が生れてきた。
韓国から当時渡った海は玄界灘ではなく有明海か島原湾だ、邪馬台国は阿蘇を中心に存在する強大な国家であった。同国を取り巻くように北に狗邪韓国、有明海を隔てて奴国、東南に神武天皇を排出した日向神武王国、南に狗奴国、投馬国などが鼎立していた。同国は
特に狗邪韓国を恐れ、海岸線から国境に小国を配置した。これらが斯馬国、伊邪国、都市国…・巴利国、支惟国、烏奴国などだ、というのだ。近年発掘された吉野ヶ里遺跡は烏奴国ではないか。二、三世紀、邪馬台国は倭の一大工業国で、神武集団はこの武器を使って東征を行ったのではないか。
やがて岩都と荒尾は馬見原で九州の臍の墓石を発見する。しかもそこからは荒尾画伯のスケッチそのままの風景が見られた。老画伯はきっとマの邪馬台国をこの辺と考え、マ、臍とメモしたに違いない。殺害現場は新宮ではなくこの近辺ではなかったか。次々と事件の謎が解けて行く。

高木彬光の「邪馬台国の秘密」と読み比べ、どちらが本当に邪馬台国のあったところ?邪馬台国と神武天皇の大和朝廷はどのような関係か?などと問われても、どちらが正しいかは分からない。しかし作者はかなりよく調べている。その意味では殺人事件などはなくても良かったのでは、という気もする。
ただ推理小説と考え方から見ると一つ面白いところがあった。反抗的な娘が、母親以外の女性とおかしな関係になった父親に殺意を抱いた点である。(作中では娘はコカイン中毒にかかっており、財産を狙う男にそそのかされて父を殺した。後の二つの殺人は脅迫されたから、という設定になっている。)女の子から見た理想の父親像というのはつかみにくく、そういうこともあるのかな、と思った。もしそうならその点を心理的に突っ込んでほしかった気がした。
010220