徳間文庫
有料老人ホームダイヤライフは建設途中で、現在は元アニメーターだった入居者が七人、それにプロデユーサー水沼、デイレクター桐谷などがいる。
通称アッコちゃん加田朱子こと白雪姫の衣装と仮面が自室から庭の池に落ち、皆が気がついた時、彼女は玄関わきの霊安室で首なし死体となっていた。霊安室は何と玄関脇にあり、スイッチを入れ声をかけるとと巨大な手が降りてくる。その上に棺をのせ「上がれ」と声をかえると上昇し、天井に消える特殊な構造になっている。その先は外に通じていつから、確かに葬儀の時にはムードがある。
瀬戸内浄こと009と鮎川小枝ことこずえは老いらくの情事にふけっている。劇作家の那珂一平等は推理グループを作り過去に事件を解決している。全員で白雪姫事件の調査に行くことになったが、なぜか那珂だけが抜け駆けし、先にやってきた。しかも帰り道、車で事故を起し重傷を負ってしまった。那珂がくる直前、アトムこと亜坂夢子と大立ち回りを演じた高所恐怖症の芳賀絹枝こと鬼太郎が心臓発作で死んでしまった。
ふたたび全員で調査に赴き、可能克郎や娘のキリコが入居者に聞きたい、と要求すると、ちょうど霊安室に集まって加田と芳賀を追悼する集会を開いているという。ところが扉を開けると苦しみもがく大北二郎ことオバQが這い出してきた。残り4人はすでに死亡していた。やがてオバQも他界し、原因はコーヒーに入っていた青酸カリと判明!
死亡した一人星見一鉄こと飛雄馬の日記が発見された。「私は加田朱子ことアッコチャンが好きで、抱いた。ところが首なし死体となってしまった。仇を取ってやる。犯人はだれにも相手にされないアトムこと亜坂夢子だ。彼女は人の幸せをねたんで次々と殺人を犯したのだ。」真相を知るために彼は全員に自白強制剤を飲ませるプランを立てたが、それを青酸カリとすり替えたやつがいるらしい!
ここで主役通称ミステリー作家牧薩次ことポテトが登場する。「先日ダイヤライフを訪問した那珂先生は偽物だ。加田朱子は、霊安室の手の上昇機構を使った自殺だが、保険金を取るために首を切った。芳賀絹枝もあの上昇装置に乗せられ、心臓発作を起こした。」などと真相を暴いた後、星見一鉄こと飛雄馬の復讐にはやる心を利用した、画家で那珂先生とそっくりの実行犯河内卓を指摘する。しかしその時火災発生。気がついた時逃げ出した河内は刺殺死体で見つかった。どうやら背後に老人ホームの経営をめぐるいざこざがありそうだ。
アニメの脚本家である作者の特色を存分に生かした作品。これを書く以前に作者は「アリスの国の殺人」「ピーター・パンの殺人」などを上梓しているが、それらと同様、構成、脚色、プロット、いづれも凝った作品である。
脚本のように全体を9scene、それぞれのsceneを、いくつかのcutでさらに刻んで書く、という珍しい形を取っている。老人ホーム住人に飛雄馬、アトム、こずえなどの通称を記していることも特徴的である。
この作品でもう一つほろりとさせられるのは老人ホームの生活ぶりである。
「この歳にになると、ひとりでいること、ひとりで眠ることが、ときたまどうにもならないほど、不安でたまらなくなるんですよ。」(52P、大北)
「どうにもこうにもなるもんか。お先真っ暗だ。政治屋さんにしてみれば、死んで行くだけの非生産的階層にゴマをすったところで、票集めに役立つとは思えない。なに、本人だって肩書きをはずせば。ヨボヨボのヨタヨタのヨレヨレ爺ばかりだが、バッジの威光で老人ホームを必要としていない。」(176P)
「きまって女の子が詰めている部屋の近くで読んでいたって言うんでしょう。…・マンガは口実なのよ。人が大勢ひしめいているところに、すこしでも近寄りたかったからだと思うな。」(225P)
・“ダイヤライフ多摩”は有料老人ホームである。では、有料老人ホームとはなにか。老人福祉法によれば、「常時十人以上の老人を収容し、給食その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設であって、老人福祉施設でないもの」である。わが国の老人化は、今後おそろしいスピードですすむはずだ。六十五歳以上の人口が全人口に対する割合は、いまは13パーセントを上回る程度だが、二十一世紀をむかえるころになれば、16.2パーセント、それから二十年もたとうものなら、24から25パーセントという状態になる。人口の四人にひとりは老人!かつてどの国も歴史上味わったことのない高齢化社会を、ほかならぬわれわれ日本人が経験するのである。
第二次大戦中、国民がうけた教育は「人生二十年」というものであった。男子たるもの二十歳までにお国のために、天皇陛下のおんために、一命を捧げて悔いなくあれ。それが1945年8月15日を一線として、天地さかさまとなった。鴻毛の軽きにたとえられていた命が、突如として地球より重くなったのだから、国民は仰天した。それ以来半世紀、大切にされた命はどしどし延びていって、ついに世界に冠たる長寿国ニッポンとなったのだ。いまや「人生八十年」。四倍になった命をどう使い切るかが、日本人の最大の関心事である。(19p)
・・・それから三時間や四時間は起きているのだから、布団にはいるころにはそろそろ小腹がすいてくる。つい夜食で胃を乱調にする者も出てくるというわけだ。だが施設側に、人件費節約の大前提がある以上、おいそれと食事時間の変更はみとめてくれまい。こころみにほかの老人ホームいくつかをチェックした浄だから知っているが、極端なホームになると、午後四時半にタ食タイムを設定していた。(118p)
・亜硝酸アミル(205P)
010209