角川文庫
新しく建てられた団地のダストシュートのなかに、タールの山ができていた。死体は、その中に顔の方から奥につっこまれていた。着衣から団地に隣接した洋裁店タンポポのマダム片桐恒子と判明した。
この事件の主な登場人物はマダムの他にこの洋裁店で働いている戸田京美、河村松江、弟子でおしゃべりの宮本タマキ、団地住人の須藤達夫、妻順子、元陸軍中佐でびっこ、カラスを飼うへんくつな管理人根津伍市、その娘由起子、スター志望の榎本謙作、姫野三太、落ち目の挿し絵画家水島浩三、地主の伊丹大輔などである。
見知らぬ者同士が、あるとき突然一緒に住むことになった団地という奇妙な空間。56pに「団地という従来にまったく見られなかったタイプの住居と、そこにおける生活が日本人の社会心理に、どういう影響をおよぼすだろうかよいうことは、これからますます必要になってくる研究課題にちがいない。」とあるが、そういう新しい社会での人間模様を捕らえようとしているところにこの作品の面白さがある。
その団地に「Ladies and Gentlemen」ではじまる個人のプライベートライフを辛辣に暴露する怪文書が流され、人々に波紋を与えた。そしてキーワード「白と黒」。そんな時冒頭の事件が起こった。しかも同じ頃、須藤達夫が行方不明になった。いわゆる「顔のない死体」に相当する事件だが、有力な手がかりは皆無である。金田一と等々力警部が事件の解明に乗り出す。
「どん栗コロコロどん栗コ お池にはまって さあたいへん」姫野の推理と怪文書に従って池をさらってみると、須藤達夫の刺殺死体がでてきた。根津のヒロポン中毒、分かれた妻、根津と戦友だった代議士、片桐恒子と伊丹の関係など人間関係の奥にあるものが次第に明らかになって行く。しかし一方で怪文書事件の主犯と考えられた画家が消えた。さらにおしゃべりタマキの殺害。
金田一耕助の解決編は死体運搬人の告白から始まる。彼は死体を発見してその前身が発覚したら都合が悪いと考えた。そこであのような策を労して、顔を破壊したのだった。
しかし殺人は全く別の次元で行われた。同性愛という異常な習癖に誘惑された一人の娘が、ノーマルに転向したくなった。それを怪文書などで相手が妨害していると誤解して、そこから起こった単純な事件だった。
全体で見ると事件が事件を呼ぶ形で、団地という言ってみれば無責任社会の特色を良く捕らえているとも言える。
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